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なじみのないTransferJet
5月に入って、「ソニーが近接無線「TransferJet」で実証実験」、「TransferJet搭載の富士通製Androidスマートフォン「ARROWS NX F-04G」発売というニュースもありました。その前の3月に、「ついに登場したiOS向けTransferJet」というニュースもありました。
これまであまり聞きなれていないTransferJetという近接無線技術ですが、実は意外に歴史は古く、2008年の1月にソニーが発表し、同年7月には、ソニーをはじめとして、キヤノン、日立、東芝などからなる業界団体「TransferJetコンソーシアム」が発足しているのです。現在、コンソーシアムには大日本印刷、富士通、アイ・オー・データ、KDDI、村田製作所、NTTドコモ、リコーなど25社が加盟しているようです。
TransferJetとは
TransferJetは、通信したい機器同士を直接かざすだけで通信を行うことができる無線技術です。面倒な設定や初期設定などは必要としないとてもシンプルな技術です。通信距離は3cm以内と短いのですが、理論値としての物理速度は最大560Mbps、実効の転送速度は375Mbpsという高速通信が可能です。いかに高速化は、USB 2.0の最大速度が理論値480Mbpsであること比べると理解できると思います。
こうした高速通信が、ケーブルで機器同士を接続するといった手間をかけずに、ただかざすだけでできるのですから、非常に魅力的な無線技術であると言えます。
(https://www.transferjet.org/ja/tj/tj_overview.htmlより)
特徴としては次のようなことが挙げられます。
① 機器同士を直接かざすだけという直感的なインターフェースでの通信
② 通信距離が短いため、データ漏洩の可能性は低く、難しいセキュリティ設定は不要
③ 安定かつ高速での大きなデータ量の転送
④ 微弱出力による近接専用の無線システムのため、他の無線システムの干渉がほとんどない
なかなか普及しないTransferJe
登場して7年もたつのに普及しているとは言い難い状況です。いくら優れたものであっても普及しなければ、「ガラケー」の二の舞となりビジネスとしては失敗してしまいます。思うように普及していない大きな要因は、スマホに搭載されていないということです。
しかし、昨年末ぐらいから「TransferJet復活か?」という見出しがニュースに載るようになり、再びTransferJetに注目が徐々に集まりつつあるようです。普及の兆しが見えてきたようで、産業機器・医療機器への利用、スマートフォン等への組込みなどが期待されています。
産業機器や医療機器などでの利用
微弱出力による近接専用の無線システムのため、他の無線システムに干渉しないということから、医療機器等への影響を避けることができ、わずか数センチしか飛ばないことからセキュリティ面でのリスクが低いという点で、産業機器や医療機器での利用用途が広がる可能性があります。
スマートフォンやPCへの組み込み化
スマホやPC向けのアダプターモジュールが東芝から発売されました。もちろんiphone用もあります。これによって、一般消費者にもTransferJetが認知される状況ができてきました。さらに、TransferJetは今後、スマホに追加できる数少ない機能であり、Project Ara(※1)用モジュールとして開発が計画されていることなども普及への足掛かりとなりそうです。
(参考:EE Times Japan http://eetimes.jp/ee/articles/1404/24/news002.html)
(※1)Googleによって開発された、モジュールパーツ組み立て式のAndroidスマートフォンです。本体は金属フレームのみで、規格に沿ったカメラ部分、液晶部分、ボタンやフラッシュなどあらゆるモジュールをレゴブロックのように組み合わせ、ユーザーオリジナルの端末本体を作ることができます。
TransferJetの仕様
周波数は4.48GHz帯を使用し、UWB、Wireless USBと同じ周波数帯です。送信電力は、−70dBm/MHz以下(平均電力)で、日本では微弱無線局の規定に準拠しています。
TransferJetの伝送原理は誘導電界です。このため、ソニーが開発したTransferJet Coupler(トランスファージェットカプラ)という専用アンテナがコア技術となっています。このカプラは、近距離では高い利得を得ながら、離れると強度が急激に減衰するという特徴を持っています。また偏波(※2)を持たないため、機器同士の角度を意識せず、かざすだけで利得を落とさずに通信することが可能となっています。
中心周波数 | 4.48GHz帯 |
送信電力 | -70dBm/MHz以下(平均電力)日本では微弱無線局の規定に準拠諸外国はその国の電波規則に準拠 |
転送レート | 560Mbps(MAX) / 実効レート375Mbps通信状況に応じて最適な転送レートを選択する機能を搭載 |
通信距離 | 数cm以内を想定 |
トポロジー | 1-to-1 (point-to-point) |
アンテナ要素 | 誘導電場カプラ |
(※2)電波は横波となっていますが、横波は偏波という特性を持っており近づけるアンテナの向きによって受け取るエネルギーは大きく変化します。一方で、音波と同様に進行方向と平行に振動する縦波はアンテナの向きに依存しないため、データ伝送の際にも安定した性能(高効率)を発揮します。
(ソニー半導体技術情報誌CX-PAL:http://www.sony.co.jp/Products/SC-HP/cxpal/vol76/pdf/sideview76.pdf より)
NFCとの違い
近距離無線通信といえばSuicaやPASMOなどのFeliCa(NFC)があります。TransferJetとNFCの違いは、まず使う周波数帯の違いです。TransferJetは4.48GHz帯の電波を使うのに対してFeliCaはISMの13.56MHz帯の電波を使用します。通信速度もTransferJetの最大560Mbpsに対し、NFCは最大424kbpsと大きく違います。用途もNFCは主に認証やBluetoothペアリング、小容量データの転送などに使われますが、TransferJetは大容量データの転送を想定しいます。
出典:ソニー
今後の展望
2020年までのTransferJetの普及拡大に向けて、60GHz帯を利用した次世代仕様を策定中で、2017年の標準化を目標に、IEEE802.15で作業中とのことです。