次世代ロボット中核技術のねらい
2015年7月に、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が次世代ロボット中核技術の研究開発を産官学連携で行うことを発表しました。
このプロジェクトのねらいは、単なる現在のロボット関連技術の延長上にとどまらず、人間の能力を超えることを狙う革新的な要素技術を研究開発するとしています。具体的にはロボットではこれまでロボットの適用が考えられてこなかった分野でのロボット需要の創出につながる研究、人工知能分野においては、「自律化」「情報端末化」や「ネットワーク化」して、ビルや社会環境全体がロボットであるような場合を想定した研究開発を挙げています。
また、プロジェクトではアウトプット目標とアウトカム目標を設定しており、アウトプット目標は、ブレイクスルーを生み出す要素技術、あるいは、それらを統合するシステム化技術を研究開発し、実用化研究を開始できる水準にまで技術を完成させることを目標としています。アウトカム目標は、非連続なロボット技術の人々に受容されるように社会からの評価を心理学、社会工学や社会受容性の観点から考察し、革新的なロボットの要素技術を応用してロボット市場の創出に資することを挙げています。
次世代ロボット中核技術の具体的な研究内容
このプロジェクトは具体的には、重要な研究開発テーマを選定して実施者を募る課題設定型の「次世代人工知能技術分野」と革新的なセンサやアクチュエータ技術の発掘を積極的に進めるため、テーマ公募型により実施する「革新的ロボット要素技術分野」に分かれています。公募要領によれば、「次世代人工知能技術分野」の研究開発項目は次のようになっています。
(1)大規模目的基礎研究・先端技術研究開発
・脳型AIとデータ・知識融合型AIに関する⽬的基礎研究と世界トップレベルの先端技術研究実施
(2)次世代人工知能フレームワーク研究・先進中核モジュール研究開発
・研究成果をモジュール化し統合するためのフレームワークで複数のサービスを実現
・多様な応⽤の核となる先進中核モジュールの研究開発し、エコシステムを実現
(3)次世代人工知能共通基盤技術研究開発
・人工知能技術の有効性や信頼性を定量的に評価する⽅法
・標準的なベンチマークデータセットの準備の構築
また、「革新的ロボット要素技術分野」の研究開発項目は次のようになっています。
(4)革新的なセンシング技術(スーパーセンシング)
・画期的な視覚・聴覚・⼒触覚・嗅覚・加速度センシングシステム等の研究開発
・センサと⾏動の連携による⾏動センシング技術等の研究開発
(5)革新的なアクチュエーション技術(スマートアクチュエーション)
・⼈共存型ロボットに活⽤可能なソフトアクチュエータ(人工筋肉)
・⾼度な位置制御やトルク制御を組み合わせて関節の柔軟性を実現する新制御技術や機構等の研究開発
(6)革新的なロボットインテグレーション技術
・実環境の変化を瞬時に認知判断し、即座に対応して適応的に⾏動する技術
・個別に開発された要素技術を効果的に連携させ統合動作させるシステム統合化技術
(「次世代ロボット中核技術公募要項」参照)
採用された研究テーマ
このプロジェクトの期間は平成27年度から平成31年度までの5年間で、年間10億円の予算となっています。そして最初の2年間が先導研究期間、あとの3年間は研究開発期間となっています。
(平成27年度「次世代ロボット中核技術開発」公募説明会資料より)
2年間の先導研究の後のステージゲートにおいて、研究開発テーマの実現可能性を調査・検討し、各要素技術の研究開発内容や研究開発体制の改廃も含めたマネジメントが行われます。ですので、ステージゲートの評価によっては中止になる研究、あるいは他の技術と統合される研究もあり得るということになります。また、ワークショップ等の開催を通じて、情報発信・情報収集・技術間の連携等の他に技術間の競争を促進させ、研究を加速させるねらいもあるようです。
今回の公募で採用された研究は次のとおりです。
1 次世代人工知能技術分野
研究テーマ | 研究委託先 | |
1 | 人間と相互理解できる次世代人工知能技術の研究開発 | 産業技術総合研究所 |
2 | 計算神経科学に基づく脳データ駆動型人工知能の研究開発 | (株)国際電気通信基礎技術研究所 |
3 | 社会的身体性知能の共有・活用のためのクラウドプラットフォーム | 大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立情報学研究所 |
4 | 理論知識型AIとデータ駆動型AIの統合による自動運転用危険予測装置の構築と公道実証 | 九州工業大学 |
5 | 不定形物操作のための知能システム構築プログラムの研究開発 | 信州大学奈良先端科学技術大学院大学 |
2 革新的ロボット要素技術分野
(1)革新的なセンシング技術(スーパーセンシング)
研究テーマ | 研究委託先 | |
1 | 「人検知ロボットのための嗅覚受容体を用いた匂いセンサの開発」 | 東京大学、住友化学、公益財団法人神奈川科学技術アカデミー |
2 | 「次世代ロボットのためのマルチセンサ実装プラットフォーム」 | 東北大学 |
3 | 「ロボットの全身を被覆する皮膚センサの確立と応用開発」 | 熊本大学 |
(2)革新的なアクチュエーション技術(スマートアクチュエーション)
研究テーマ | 研究委託先 | |
4 | 「高強度化学繊維を用いた『超』腱駆動機構と制御法の研究開発」 | 東京工業大学 |
5 | 「可塑化PVCゲルを用いたウェアラブルロボット用ソフトアクチュエータの研究開発」 | 信州大学、 産業技術総合研究所 |
6 | 「高効率・高減速ギヤを備えた高出力アクチュエータの研究開発」 | 横浜国立大学 |
7 | 「全方向駆動機構を核とした革新的アクチュエーション技術の研究開発」 | 東北大学 |
8 | 「スライドリングマテリアルを用いた柔軟センサおよびアクチュエータの研究開発」 | 豊田合成、アドバンスト・ソフトマテリアルズ |
9 | 「慣性質量を含むインピーダンス可変機構を有するスマートアクチュエータ」 | 早稲田大学 |
10 | 「小型油圧駆動系と燃料電池/電池ハイブリッド電源によるフィールドアクチュエーション技術」 | 東京大学 |
11 | 「人間との親和性が高いウェアラブルアシスト機器のための可変粘弾性特性を有する革新的ソフトアクチュエータシステムの開発」 | 中央大学 |
12 | 「高分子人工筋肉アクチュエータによる柔らかな運動支援装具の研究開発」 | 九州大学、名古屋大学 |
(3)革新的なロボットインテグレーション技術
研究テーマ | 研究委託先 | |
14 | 「超広域認識行動計画学習ロボット知能ソフトウェア要素群の透過的継続的システムインテグレーション管理機構技術の研究開発」 | 東京大学 |
15 | 「人共存環境で活動するロボットのためのHRI行動シミュレーション技術の実現」 | 国際電気通信基礎技術研究所 |
16 | 「人ごみをぶつかりながら安全かつ不快感を与えずに移動する自律移動技術の研究開発」 | パナソニック、早稲田大学 |
17 | 「生物ロコモーションの本質理解から切り拓く大自由度ロボットの革新的自律分散制御技術」 | 東北大学 |
18 | 「行動記憶レイヤ統合に基づく革新的能動センシング、適応アクチュエーション、障害対応実時間統合システムの中核総合化研究開発」 | 東京大学 |
19 | 「知識の構造化によるロボットの知的行動の発現研究開発」 | 明治大学 |
(NEDO http://www.nedo.go.jp/koubo/CD3_100040.html より)