人工知能の定義はない?

679109_R

人工知能って何?

今は第3次の人工知能のブームということで、毎日のようにマスコミでは人工知能(AI)の話題が流れ、人工知能搭載をうたう家電が溢れています。あまりのブームに、必要以上の幻想を世間に抱かせるということからでしょうか、現状を「AI詐欺」などと表現する論調も見かけます。

少々過熱気味とも思えるほどの人工知能(AI)ブームですが、実のところきちんとした定義はないようです。研究者によって「AIとは何か」という問いに対する回答は千差万別です。

Wikipediaには「人工的にコンピュータ上などで人間と同様の知能を実現させようという試み、或いはそのための一連の基礎技術を指す」(Wikipedia より)とあります。IT用語辞典は「人間の脳が行っている知的な作業をコンピュータで模倣したソフトウェアやシステム」(IT用語辞典 e―Words http://e-words.jp/w/%E4%BA%BA%E5%B7%A5%E7%9F%A5%E8%83%BD.html より)と説明しています。2015年9月2日付け朝日新聞では「厳密な定義はないが、記憶や学習といった人間の知的な活動をコンピューターに肩代わりさせることを目的とした研究や技術のこと」としています。

NHK解説委員室解説アーカイブス(2014年11月20日:くらし☆解説 「進化する人工知能・その可能性」)はもう少し具体的に「人間の知能をコンピューターソフトで実現させるもので、知能といってもいろいろあり、(1)知識の中から答えを検索すること。(2)多くの情報をもとに学習すること。(3)あいまいな情報の中から、答えを類推することなどがあげられます」(http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/700/203783.html より)と説明しています。

さらに、国立研究開発法人 科学技術振興機構が2015年に出した「研究開発の俯瞰報告書 情報科学技術分野(2015年)」では、「コンピューターにより人の知的な振る舞いを実現することを目標にする研究分野」としています。

平成28年版情報通信白書では、国内の主な研究者の人工知能(AI)の定義の一覧を載せていますが、白書では、このように人工知能を様々に定義される背景として、「知性」や「知能」自体の定義がないことを指摘しています。そして、白書では「人工知能(AI)とは各種研究が達成された先にある、最終的な将来像を表現した言葉」とも述べています。つまり、現在盛んに人工知能ということが言われていますが、本当のところ、人工知能はいまだ存在していないというわけです。

このように人工知能とは何かという定義は定かではないようですが、人工知能(Artificial Intelligence:AI)という名前はすっかり定着しています。ちなみに、Artificial Intelligenceと最初に名づけられたのは、1956年のダートマス会議が最初であるということはよく知られたところですが、すんなりと決まったわけでもないようです。というのもArtificialには「模造」とか「つくりもの」といった意味があり、つくりものの知能ということに抵抗を感じた研究者もいたようです。

人工知能の分類

人工知能については、特化型人工知能(Narrow AI)と汎用型人工知能(Artificial General Intelligence)や弱いAI(Weak AI)と強いAI(Strong AI)といった分類の仕方で紹介されることが多いようです。世間でイメージする映画やSFに出てくる人工知能は、汎用型人工知能(AGI)や強いAIに相当します。

特化型AIは、一つの機能に特化して作業を遂行するもので、GoogleのAlphaGoやIBMのワトソン、自動運転などに用いられるAIなどがこれに当たります。汎用型AIは、特定の作業やタスクに限定せず人間と同様の、あるいは人間以上の汎化能力を持ち合わせているもので、もちろん実用化されているわけではなく、特化型の進化した究極の姿かもしれません。

弱いAIとは、知能を持っているわけではありませんが、人間の知的な活動の一部と同じようなことをするAIで、人間を支える知能と表現することもあるようです。強いAIは、まさに人間のようにものを考え、自律的に学び、意思決定行うことができるもので、人間と同等又はそれ以上の知能をもっているコンピュータです。

こうしたことから、特化型と弱いAI、汎用型と強いAIを「=」とみなす説明が多いようですが、「≒」とする説明もあります。また、意識を持った人工知能を強いAI、意識を持たない人工知能を弱いAIとして、弱い汎用型もありうるという考え方もあるようです。

ところで、弱いAI、強いAIという言葉を最初に用いたのはカリフォルニア大学バークレー校のジョン・サール教授ですが、氏の論文「MINDS, BRAINS, AND PROGRAMS」には、
弱いAIについて

「According to weak AI, the principal value of the computer in the study of the mind is that it gives us a very powerful tool.」
http://cogprints.org/7150/1/10.1.1.83.5248.pdf より)

強いAIについて

「But according to strong AI, the computer is not merely a tool in the study of the mind; rather, the appropriately programmed computer really is a mind, in the sense that computers given the right programs can be literally said to understand and have other cognitive states.」(http://cogprints.org/7150/1/10.1.1.83.5248.pdf より)

という記述があります。弱いAIというのは心の研究における強力なツールとしてのコンピュータであり、強いAIは心の研究の道具ではなく、実際の心であるということのようです。

ai2017_001_R(ICT 先端技術に関する調査研究 報告書 2014 年4 月 株式会社KDDI総研 http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/linkdata/h26_09_houkoku.pdf より)

科学技術振興機構の「研究開発の俯瞰報告書 情報科学技術分野(2015年)」では、人工知能を「探索型」「知識型」「計測型」「合型」に分類して説明しています。
探索型AIは、チェス・将棋・囲碁で人間と対戦するゲームAI などです。知識型AIは、IBM の「ワトソン」や国立情報学研究所の東ロボ君などです。計測型AIは、お掃除ロボット「ルンバ」や自動運転などです。統合型AI は、探索型、知識型、計測型を統合したAI で、知能ロボティクスの研究が代表的なものとしています。

ai2017_002_R(国立研究開発法人科学技術振興機構「研究開発の俯瞰報告書 情報科学技術分野(2015年)」http://www.jst.go.jp/crds/pdf/2015/FR/CRDS-FY2015-FR-04/CRDS-FY2015-FR-04_13.pdf より)

技術レベル・機能による分類もあります。みずほ情報総研は「みずほ産業調査/54 2016 №1:平成28年3月1日発行」」の中で、現在、AI として認識されているものを、レベル1(制御)、レベル2(推論)、レベル3(機械学習)、レベル4(ディープラーニング)の4つに分類しています。レベル1(制御)とは、いわゆるAI搭載家電といわれるものです。質問応答システムはレベル2(推論)、インターネットの検索エンジンはレベル3(機械学習)、画像認識やSiriなどの音声認識、自動翻訳、自動運転などはレベル4(ディープラーニング)です。

機能面から、「言語を扱う人工知能」「画像を扱う人工知能」「音声を扱う人工知能」「制御を扱う人工知能」「最適化や推論を扱う人工知能」という分類もあります。

人工知能研究の第一人者である東京大学大学院工学系研究科の松尾 豊 特任准教授は、人工知能を「大人のAI」「子供のAI」に区別しておられます。大人のAIは、ビッグデータやIoTなどに従来の人工知能の技術を用いて人間が作りこんでいるAIで、専門家のようなことができるAIです。ところで、これまで大人ができることよりも子供ができることをコンピューターで実現させるほうが難しい、あるいは不可能といわれていました。子供のAIというのは、そうした難しいとされた子供ができるような認識能力の向上、運動能力の向上、言語の意味理解などができるようになるAIです。松尾豊先生は「特徴量の設計を人間がやらないといけないのが大人の人工知能、やらなくてよいのが子どもの人工知能」とおっしゃっています。

モラベックのパラドックス

大人ができることよりも子供ができることをコンピューターで実現させるほうが難しいとい一見矛盾するようなこの考えを「モラベックのパラドックス」と呼んでいます。1980年代にカーネギーメロン大学のハンス・モラベック(Hans Moravec)氏らが提唱したもので、「・・”it is comparatively easy to make computers exhibit adult level performance on intelligence tests or playing checkers, and difficult or impossible to give them the skills of a one-year-old when it comes to perception and mobility“(コンピュータに知能テストを受けさせたりチェッカーをプレイさせたりするよりも、1歳児レベルの知覚と運動のスキルを与える方が遥かに難しいか、あるいは不可能である」と述べています。

しかし、ディープラーニングのブレイクスルーによって、モラベックのパラドックスは崩れたという論調も見かけるようになってきました。前述の「研究開発の俯瞰報告書 情報科学技術分野(2015年)」では、AI は人の知能に迫ってきていると述べています。そして、今後、ELSI(Ethical, Legal and Social Issues:倫理、法律、社会的な観点)からAI を設計する必要性が高くなるとしています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です