ロボットが人格をもつということ

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グーグルのロボットの人格に関する特許

 グーグルが「ロボットのパーソナリティを構築する方法とシステム」(Methods and systems for robot personality development)という特許を取得したことが2015年4月にマスコミで報道されました。中には「死者をよみがえらせる」とか「有名人の性格を持ったロボット」といったセンセーショナルな見出しを付けた記事もありました。
特許公報には次のように書かれています。

 1. A method for providing a robot apparatus with a personality, the method comprising:
obtaining, by a first device associated with a robotic apparatus, information from a second device, wherein the information relates to communication between a user and the second device containing personification indicators, and wherein the first device is configured to interact with the user;
in response to obtaining the information, the first device processing that information to obtain data usable to modify the robotic apparatus so as to provide the robotic apparatus with a personality, wherein processing comprises accessing a cloud computing system and analyzing one or more data of the information selected from the group of (i) characters, (ii) word-choice, and (iii) sentence structure relating to the communication between the user and the second device;
and based on the data, the first device modifying the robotic apparatus so as to provide the robotic apparatus with a personality.

要するに、この特許は、ロボット装置にあたる第1のデバイスが、第2のデバイスから情報を獲得する手順やロボット装置にパーソナリティを提供するための情報処理の手順などであり、この第2デバイスからの情報は、擬人化指標を含むユーザーと第2のデバイス間のコミュニケーションに関連し、第1のデバイスはユーザーと対話を行なうよう構成されています。また、ユーザーと第2のデバイス間のコミュニケーションに関連した(i)キャラクター、(ii)単語の選択、(iii)文の構造の中から選択した一種以上のデータの情報の分析等はクラウドコンピューティングへのアクセスによって行われます。つまり、ロボットの対話機能のパーソナリゼーションの元になるデータをクラウドから取得して分析することがポイントとなっているわけです。
この技術は、ロボットのパーソナリティ・データをクラウド上に置いて共用するという点でクラウド・ロボティクスの応用と言えます。また、personalityを「性格」や「人格」と捉えてセンセーショナルに取り上げていますが、ここでいうpersonalityは、ユーザ一人一人の嗜好や特性にあわせてコンテンツを選別・加工し、各ユーザに対して個別に情報を提供するいわゆる「パーソナリゼーション」機能のパラメーターといった意味合いで使われているように思います。

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(ITmedia ニュースhttp://www.itmedia.co.jp/news/articles/1504/02/news156.html より)

グーグルのロボットはどんなロボット?(特許の概要から)

公報に書かれている特許の概要を読むと、ロボットは、ユーザの特定のプロファイルまたは性格に応じて動作するようにプログラムすることができるとしています。
例えば、ロボットによってエミュレートする人というのは、実際の世界に存在する人の人格のようにプログラムすることができます。つまり、ロボットの振る舞いが、ユーザーに基づいて、故人であったり、最愛の人であったり、有名人であったりすることができるというわけです。また、 ロボットの性格も幸せ、恐怖、驚き、困惑、心遣い、嘲りの一時的状態を表す状態や気分も表現できるようです。
概要にはカスタマイズ可能なロボットを提供しますとも書かれており、実際の人間の性格をロボットに植え付けるのではなく、会話や表情や体の動きなど自分好みの性格、自分好みの外見をロボットに載せることもできます。さらにこのロボットは、対話する人間(複数可)からの手がかりを使用して選択した性格に基づいて、人間のユーザーに即興的に対応する能力も備えています。
また、クラウドベースであることから、ロボットのクローンをつくることができます。ですから、例えばユーザーが今いるところから別の都市へ移動した際に、自宅のロボットを持ち運ぶことなく、移動先で別のロボットに同じ性格をダウンロードすることができ、ロボットパーソナリティの輸送や譲渡が容易になります。

グーグルの目指しているロボットは、人の様々な特徴に基づいた性格情報がデータベースに蓄積されており、その性格データをロボットにダウンロードすることで、特定の個人の話し方や表情などの性格を似せることを目指したロボットのようです。

ロボットと人格

人格とは大辞林によれば、「独立した個人としてのその人の人間性。その人固有の、人間としてのありかた」「倫理学で、自律的行為の主体として、自由意志を持った個人」などと定義しています。では、こうした個人あるいは主体を成立せしめている要件とは何なのでしょうか。ロックは人格の本質は意識であり、カントは、意識は動物にない人間の能力であるとしています。すなわち人格を形作る要件の一つは意識を持っていることかもしれません。さらに、昨日の自分と今の自分がつながり、昨日の行為が今ある自分のした行為であると認識できること、いわゆる自己同一性も要件の一つと考えられます。昨日の自分が今の自分につながることを認識するには、昨日の自分を記憶できなければならません。とすれば、記憶も重要な要件と言えそうです。

こう考えると、特許を取得したグーグルの目指すロボットは本当に人格を有していると言えるのでしょうか。人格がダウンロードされたロボットが、その後、自律的行為の主体者となりうるのか?デジタル化された人格が自由意思を持って新たな人格を形作っていくことが出来るのか?と、考えると、まるで禅問答のようになってしまいます。
そもそも素朴な疑問が浮かんできます。故人の人格がロボットに移植されたとして、その人格は自分はすでに死んでいるんだということを自覚しているのだろうか、また、ロボットの身体に違和感をもたないのだろうかということです。死ぬ前の自分とロボットになった自分の同一性が保たれないとすれば、人格を成立させる要件の一つが崩れてしまいます。人間の人格の形成には身体を抜きにしてはあり得ません。人格を持ったロボットが、そののち得られるロボットという身体から得られる情報と、人間であった時の身体から得ていた情報の違いに同一性を保持できなくなるのではないかという疑問が生じてくるのです。故人だろうと、最愛の人であろうと、有名人であろうと、その人格のダウンロード後、時間が経過するにつれて本来の人格との同一性を喪失していくのではないでしょうか。

グーグルのロボット開発のねらい

近年ロボットの進化は著しいものがあります。その要因としてオープンソースによるロボットのOSの進化、センサーなどの低コスト化、クラウド・ロボティクスの発達、要素技術のコモディティ化、パーベイシブコンピューティング(※1)・通信の発達などが挙げられます。とは言っても、まだサービスロボットは利益を上げるまでに成熟した産業とはなっていません。しかし、グーグルは積極的にロボット関連のベンチャー企業を買収するなどして、ロボット業界に莫大な資金を投入しています。そのねらいは何なのでしょうか。

Googleは、ロボット企業買収の目的について発表しているわけではありませんので、正確なことは分かりません。ただ、モバイルでオープンソースOS(Android)をGoogleが支配する体制を築いたのと同じパターンをロボットでも再現しようということではないかと見る向きが多いようです。つまり、これまでソフトもハードもメーカー独自という垂直型のロボット産業をレイヤーごとに切り離し、OSを共用可能にしてコストを下げて開発の速度を上げようというわけです。そして、「クラウド・ロボティクス」の技術を使って、ユーザーが情報を見てアクションを起こすのではなく、情報をもとにユーザーが希望するようなアクションを機械が自動的に行ったり、環境を変化させたりするということを事業化しようとしているのかもしれません。無人自動運転車の試みもそうした試みの一貫と考えられています。

(※1)情報技術とネットワーク環境が融合したコンピューター技術やその環境で、ユビキタスコンピューティングとほぼ同じ概念です。つまり、どんな状況でも、いつでも、どんな端末でも、どこにいようともコンピューティングが可能になるというものです。

グルールの試みへの懸念

グーグルの試みには、批判的な見方もあるようです。
英紙インディペンデントは「グーグルによる人格ロボットの特許取得は、『技術的特異点(シンギュラリティー)』に至る第一歩だ」と報じているようです。こうした批判に対して、グーグルのエリック・シュミット会長は「『2045年問題』の指摘は誤りだ。優れた人工知能のロボットは、人類にユートピアをもたらす。ディストピア(暗黒社会)ではない」と反論しているそうですが、この2014年問題、シンギュラリティについては、こちらのページをご覧ください。

 

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