ICT ・アナリティクス分野の社会実装の時期(第10回科学技術予測調査より)

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科学技術予測調査

文科省の科学技術・学術政策研究所が、2015年9月に第10回科学技術予測調査の報告書を公表しました。この調査は、「将来社会ビジョンの検討」、「分野別科学技術予測」、「国際的視点からのシナリオプランニング」の三つのパートからなっています。

また、この調査の一環として、今後 30 年程度の科学技術発展の方向性について、重要度、実現可能性、推進方策等を問うウェブアンケートを2014年9月に実施し、約 4300名の専門家の見解をまとめています。調査対象は次の8分野です。

① ICT ・アナリティクス分野

② 健康・医療生命科学分野

③ 農林水産・食品バイオテクノロジー分野

④ 宇宙・海洋地球科学基盤分野

⑤ 環境・資源エネルギー分野

⑥ マテリアル・デバイスプロセ分野

⑦ 社会基盤分野

⑧ サービス化社会分野

ICT ・アナリティクス分野の特徴

ICT ・アナリティクス分野での対象は、「人工知能、ビジョン・言語処理、デジタルメディア・データベース、ハードウェア・アーキテクチャ、インタラクション、ネットワーク、ソフトウェア、HPC、理論、サイバーセキュリティ、ビッグデータ・CPS・IoT、ICTと社会」の12の細目で、さらに114の科学技術トピックを設定しています。そして、大きく「研究開発特性」「実現可能性」「重要施策」の3つの視点でアンケートを取っています。

実現可能性では、それぞれのトピックの技術的実現については2020 年と2025 年に、社会実装については2025 年と2030 年にピークがり、ICT・アナリティクス分野のトピックは早い実現を予測する回答が多かったようです。

また、「ソフトウェア」、「サイバーセキュリティ」は重要度が高いと評価されたにもかかわらず、国際競争力が相対的に低いと専門家はみているようです。「ビッグデータ・CPS・IoT」「人工知能」については、国際競争力が低めであるばかりでなく、重要度もあまり高く評価されていません。重要度が高いとされた上位10 課題の内、HPC やビッグデータに関するもの5 件、セキュリティ・プライバシーに関するもの2 件、医療・介護・高齢者支援に関するもの2 件、防災・減災に関するもの1 件となっています。国際競争力が高いとされたのは、「HPC」がと最も高く、次いで「ネットワーク」、「インタラクション」となっています。

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(第10 回科学技術予測調査「国際的視点からのシナリオプランニング」2015 年9 月 文部科学省 科学技術・学術政策研究所 科学技術動向研究センター より)

技術的実現・社会的実装の概要

この調査で注目されるのは、それぞれのトピックの技術的実現や社会実装の可能性、さらに実現・実装の時期等について予測していることです。ICT ・アナリティクス分野の技術的実現や社会実装は、他の分野よりも早く実現すると見る回答者が多いようです。もちろん、楽観的な見方ばりというわけではありません。トピックによっては、実現の可能性が低いと回答する専門家もいます。実現しないという回答で多かったものは、多い順に次のようになっています。

① バグの発生頻度を100万行あたり1個程度以下まで抑えることを可能とするソフトウェアの開発技術(35.9%)

② 10k量子ビット間でコヒーレンスが実現され従来解決困難だった問題を高速に処理できるゲートモデル型量子コンピュータ(33.3%)

③ 民事調停の場で、紛争当事者の事情を聴き、調停案を提案できる人工知能調停補助員(28.7%)

④ リモート攻撃可能なセキュリティホールを含まないソフトウェアを開発する技術(25.7%)

⑤ 100億のニューロンと100兆のシナプスを有し人間の脳と同等の情報処理を行うことのできるニューロシナプティックシステム(23.1%)

さらに、社会的実装しないという回答の上位には、上記の5つの他に「監督の演出意図を把握し、演技をするバーチャル俳優」があります。

技術的実現がなされてから社会実装されるまでの期間については、細目別の平均で最も長いのが「理論」の5.2 年で、「ネットワーク」、「ソフトウェア」は3 年未満と比較的短くなっています。トピックごとに見ていくと、実現の可能性が低いとされた「10k量子ビット間でコヒーレンスが実現され従来解決困難だった問題を高速に処理できるゲートモデル型量子コンピュータ」が、技術的実現が2030年、社会実装が2038年で8年かかると予測しています。「計算困難性の解明における新しい計算モデルの実現」(理論)も、技術的実現が2027年、社会実装が2035年で8年となっています。

一方「放送・通信・マスメディアなどで配信された過去の画像・映像・音声・文字データを高品質にアーカイブ化し、検索・分析・配信・利活用する技術」のように技術的実現と社会実装に0年と差がなく、技術的実現と社会実装に時差のないものもあります。

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(第10 回科学技術予測調査「国際的視点からのシナリオプランニング」2015 年9 月 文部科学省 科学技術・学術政策研究所 科学技術動向研究センター より)

社会実装の具体例

報告書には、社会実装の予想時期について、2020年から2038年まで年代ごとにトピックが記されています。いくつか紹介します。

(例)

2020年

・あらゆる故障に対して自己修復機能を有する耐故障型ロジックLSI

2022年

・SNS などのソーシャルメディアのデータを分析し、行動予測するシステム(例:犯罪予測や消費者の購買行動予測)

・攻撃者の攻撃パターンの動的変化を認識して、その攻撃に適した防御を自動的に施す技術

2023年

・三次元積層技術により異種チップ(CPU・メモリ・センサーなど)が10 層以上積層されたLSI

・ウェアラブル生体信号センサーから得た情報を基にユーザーの意図を理解し、コンピュータの操作(メニューの選択や文章の入力など)を行う技術

2024年

・データの価値が視覚化され、市場原理に基いて広く取引されるデータマーケットプレイス

2025年

・サッカーなどのスポーツで人間に代わって審判を行う人工知能

・喜怒哀楽や微妙なニュアンスの違いを表現できる音声合成技術

・ディスプレイとカメラをコンタクトレンズに内蔵したウェアラブルコンピュータ

・Internet of Things(IoT)の進展により、社会に大量に配備される多種多様なセンサー群のデータを、統合して検索・分析できるシステム

・表情・身振り・感情・存在感などにおいて本物の人間と簡単には区別のできない対話的なバーチャルエージェント。受付や案内など、数分間のやりとりが自然に行えるようになる。

2029年

・発話ができない人や動物が、言語表現を理解したり、自分の意志を言語にして表現したりすることを可能にするポータブル会話装置

2030年

・民事調停の場で、紛争当事者の事情を聴き、調停案を提案できる人工知能調停補助員

・監督の演出意図を把握し、演技をするバーチャル俳優

・100 億のニューロンと100 兆のシナプスを有し人間の脳と同等の情報処理を行うことのできるニューロシナプティックシステム

2037年

・はじめは幼児と同等の知覚能力と基礎的学習能力と身体能力をもち、人間の教示を受けて、外界から情報を取り入れながら、成人レベルの作業スキルを獲得することのできる知能ロボット

予測のように、こうした技術が近未来に実現することに期待する一方で、技術の進歩とともに人間の存在意義が変化していくことに、人間自身がついていけるのか心配にもなります。

 

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