デジタル・カルテル

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デジタル・カルテル

最近、「デジタル・カルテル」という言葉を耳にするようになってきました。カルテルというのは、いろいろありますが、例えば、企業同士が自由競争を避けてお互いの利益を守るために価格(価格カルテル)や生産量(生産カルテル)、市場の分割(市場カルテル)などの協定を結ぶことです。これらは消費者の立場からすれば、価格によって商品を選ぶという利便性が得られないとか、本来の価格以上の高い商品を買わされるという不利益を被るといった不都合を受けることになります。経済面からも自由競争による技術革新が阻害され、経済の停滞が起きかねません。

そうしたことからカルテルは独占禁止法で規制されているわけですが、デジタル・カルテルは、これまでのカルテルと違い、企業同士が協定を結ぶとか合意する(暗黙も含む)といったわけではないのですが、競合他社がアルゴリズムを共有することによって、機械が勝手に物やサービスの価格を高止まりさせるような状況が生みだすというものです。価格の決定をアルゴリズムに委ねていて、競合企業同士の意思の疎通が伴わないために、どこまで違法性が問えるかという問題を抱えているようです。

経済産業省の「第四次産業革命に向けた競争政策の 在り方に関する研究会 報告書」の中でも、「第4次産業革命の下では、技術革新によって企業の競争力の源泉がデータにシフトしており、データがサービス等の競争力に与える影響が一層顕著になっている」として、データの活用モデルの分類如何を問わず、競争者や取引相手との関係で起こり得る行為の一つとしてデジタル・カルテルを挙げ、その報告書の概要の中には次のように述べています。

競合関係にある複数の事業者が、AIによって最適な価格を自動的に決定するような仕組みを導入した場合、当該人工知能の働きによって市場から価格競争が排除されうる。

http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/daiyoji_sangyo_kyousou/pdf/007_s01_00.pdf より)

デジタルカルテルの定義

公正取引委員会競争政策研究センターが2017年6月に公表した「データと競争政策に関する検討会 報告書」では、デジタル・カルテルについて次のように述べています。

「デジタル・カルテル」とは、国際的に確立した定義はないものの、同じ価格アルゴリズムを企業間で共有したり、利潤を最大化する人工知能を利用して、その人工知能が価格に関する共謀を達成するといった行為を指すことが多い。

https://www.jftc.go.jp/cprc/conference/index_files/170606data01.pdf より)

総務省のAIネットワーク社会推進会議の「報告書2017-AIネットワーク化に関する国際的な議論の推進に向けて-平成29年7月28日」では、AIネットワーク化の進展に伴い形成されるエコシステムにおける公正な競争の確保の在り方が問題として、次のような場合を「デジタル・カルテル」と呼ばれることがあるとしています。

競争関係にある事業者が、それぞれ提供するサービス等に関する価格設定等に当たり、

・ 同一のAIシステム又は共通のアルゴリズムを用いるAIシステムを使用

・ 各事業者の価格設定等を委ねるAIシステムを相互に連携させて使用

等することを通じた協調的価格設定等

http://www.soumu.go.jp/main_content/000499624.pdf より)

経済産業省の「第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会 報告書~Connected Industriesの実現に向けて~平成29年6月28日」では、デジタル・カルテルについて次のような記述があります。

競争関係にある複数の事業者が、市況データ等を用いて最適な価格を自動的に決定したり、利潤の最大化を行ったりするAIやアルゴリズムを導入した場合に、当該AI等の働きによって市場から価格競争が排除されるという、いわゆる「デジタル・カルテル」の懸念が指摘されている

http://www.meti.go.jp/press/2017/06/20170628001/20170628001-2.pdf より

OECDが2016年10月に発表した「BIG DATA: BRINGING COMPETITION POLICY TO THE DIGITAL ERA」には、デジタルカルテルの定義については述べていませんが、「デジタルカルテルの出現」という項の中で、1990年代にアメリカの大手航空会社ですでにデジタルカルテルがあったと述べ、さらに、Amazonマーケットプレイスで販売された映画ポスターの価格を、他者のアルゴリズムと同期させて価格調整を行った事例などを紹介し、その上で、独占禁止当局が考慮すべきこととして、次のことを述べています。

第1に、行為自体は伝統的なカルテルであるが、リアルタイムの市場データの分析によりカルテルに関する明確な合意を遵守しているかどうかを監視することができる。

第2に、企業は、同じ価格決定アルゴリズムを共有することができ、市場データの流入に基づいて価格を同時に調整することができる。

第3に、価格の下落に即座に対抗するようにプログラムするなど、企業はビッグデータを利用して市場を透明化させ、又は相互依存関係を強化することによって、共謀を促進することができる。

第4に、企業は人工知能を利用して利益を最大化するアルゴリズムを作成し、プログラマーが最初にそのような結果を予見しなかった場合でも機械学習によって暗黙の共謀を達成しうる。

https://one.oecd.org/document/DAF/COMP(2016)14/en/pdf より)

価格のアルゴリズム化

デジタルカルテルでよく引き合いに出されるものに、2016年にウーバーが運転手と共謀して需要の多い時間に通常よりも高い料金を請求していることは独占禁止法に違反するとして集団訴訟を起こした事件があります。

訴えは、「ウーバーの運転手は、独立した個人事業者なのでそれぞれは本来競争関係にあり、顧客を獲得するために安い料金を設定するという競争が起きるはずなのに、乗車料金はウーバーが提示する価格にのっとり、ドライバーが料金を変更することはできない。価格決定アルゴリズムが決定した提示料金にドライバーが従うことで、価格が高止まりし、雑時には料金が平常時の数倍に跳ね上がることもある。ウーバーが不当な余剰利益を得ている。」という内容のようです。

ここではウーバーのAIによる需給状況に応じたピークロード価格付けが問題となっているわけですが、従来の法律から照らして個人事業者のドライバーやウーバーなどの間に明確な「合意」があるとはいえず、AIがアルゴリズムに従って価格調整をしていることをもってカルテルと判断することについてはいろいろな議論があるようです。

前述のOECDの「BIG DATA: BRINGING COMPETITION POLICY TO THE DIGITAL ERA」で取り上げられていたアマゾン・マーケットプレイスでの映画ポスター販売の場合は、他社の価格改定プログラムとうまく相互のアルゴリズムを同期させることで、ポスター価格が自動的に高く表示されるようにしたというものです。

価格決定アルゴリズムではありませんが、サプライチェーンの最適化管理システムによって、無駄な在庫がなくなり、結果として在庫を減らすための値下げが起きず、価格が高止まりし、消費者は高い商品を買わざるを得なくなるということもデジタル・カルテルに該当するのかという問題もあるようです。ただ、今の法律では直ちに違法とするのは容易ではないようです。

デジタル・カルテルへの対応はまだ始まったばかりのようです。消費者の側に立ったAIアルゴリズムでカルテルの発生を防ぐとか、アルゴリズムの登録制などのアイディアもだされているようです。

 

 

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