顔認証(face authentication)

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2020年までに顔認証システムを導入

2015年7月、日本経済新聞電子版は、政府が東京オリンピック・パラリンピック開催の2020年までに、全国の主要空港の出入国審査に顔認証システムを導入し、日本人の出入国審査を原則無人化する方針と伝えました。顔認証は、パスポートのICチップに保存した顔の画像情報と、空港のゲートで実際に撮影する顔写真を照合するというものです。これによって現在のように空港職員が一人一人を審査することがなくなり、その分を外国人の審査に回せるため、結果的に全体の審査時間の短縮できるというわけです。これは昨年に法務省が実施した顔認証技術の実証実験の結果を受けての決定だろうと思います。

法務省の顔認証に関する実証実験

face_authentication_005法務省は、2014年8月から9月の1ヶ月間、5事業所(サクサ株式会社、グローリー株式会社、日本電気株式会社、株式会社東芝、パナソニックシステムネットワークス株式会社)が参加して顔認証技術の実証実験を行い、13歳以上の22,341人の実験協力者のデータを得ることが出来ました。実験の結果は2014年11月に報告書となって出されました。

実験は、旅券読取台でIC旅券の身分事項ページ及びICチップを旅券リーダに読み取らせ、静止撮影と歩きながら撮影するウォークスルー撮影で顔認証を行う実験と、他人の顔画像等を用いたなりすまし者等の不正利用を意図する者を顔認証技術によって検知する実験です。

静止画像での結果は下記のとおりです。

誤受入率(FAR)別・実験参加事業者別の誤拒否件数及び誤拒否率(FRR) face_authentication_001_R

(日本人出帰国審査における顔認証技術に係る実証実験結果(報告)平成26年11月18日 出入国審査における顔認証技術評価委員会 より)

(参考)

〇 FAR(False Accept Rate)とは誤受入率です。誤って他人を本人と認証する率のことで、誤受理率又は他人受入率ともいいます。実験では、誤受入率(FAR)を1パーセント、0.1パーセント、0.01パーセント及び0.001パーセントの4通りに設定しています。

〇 FRR(False Reject Rate)とは誤拒否率です。誤って本人を拒否する率のことで、本人拒否率ともいいます。表では、実験協力者のIC旅券のICチップから読み出した顔画像と空港内で撮影した顔画像とが照合できなかった割合を誤受入率(FAR)の設定ごとに示しています。当然ながら、誤受入率(FAR)の設定を厳しくすれば、誤って本人を拒否する率も高くなります。

ウォークスルー撮影での結果は次の通りです。

誤受入率(FAR)別・実験参加事業者別の誤拒否件数及び誤拒否率(FRR) face_authentication_002_R

(日本人出帰国審査における顔認証技術に係る実証実験結果(報告)平成26年11月18日 出入国審査における顔認証技術評価委員会 より)

静止撮影では、誤受入率が0.001%の場合でも2社が誤拒否率が1%を切っています。静止撮影であればほぼ100%顔認証ができるということになります。ウォークスルーでも1社が1%を切っており、顔画像の撮影及び照合に要する時間も、静止撮影の場合で最も短い事業者は1秒未満、3者がおおむね10秒以下、ウオークスルーでもおおむね10秒程度ですので、実用化にかなり近い状況にあると言えそうです。

顔認証されなかった原因は?

今回の実証実験で誤拒否されたケースを分析すると静止、ウォークスルーどちらにおいても若い年代、男性よりも女性に多かったようです。実験協力者に占める誤拒否件数の割合は、10代女性、20代女性、30代女性、10代男性の順に高かったようです。年齢による顔の変化、化粧、眼鏡、前髪などが誤拒否の原因になっていると考えられる。女性では、IC旅券の顔画像及び撮影顔画像ともに前髪があったものの顔画像が実験協力者に占める割合が最も高く、これらの顔画像を確認すると、前髪が額を隠し、眉毛部分までかかっている画像が多かったとしています。男性の場合も同様で、また、男女とも眼鏡のあるなしが誤拒否率を高めているようです。

実験協力者の旅券発行日から実験実施日までの時間の経過別では、「1年未満」が最も誤拒否率が低く、10代男性においては、「3年以上4年未満」においては、誤拒否率(FRR)が「2年以上3年未満」の3倍以上となり顕著に増加する傾向が見られたようです。

以上のようなことから誤拒否の発生要因については①空港において撮影した顔画像に起因するもの、②旅券のICチップ内の顔画像に起因するもの、③時の経過による顔貌の大きな変化に起因するものの3つの要因に分類することができるとしています。

顔認証、顔認識、顔検出

これまで顔認証について述べてきましたが、よく似た言葉に「顔認識」や「顔検出」などがあります。特に、顔認証と顔認識は混同して使っているケースが多くないでしょうか?顔認証は英語では「face authentication」、顔認識は「Facial Recognition」と書きますので、同じような言葉ですが、やはり違いがあるようです。

まず認証という言葉ですが、国語辞典では、「一定の行為または文書の成立・記載が正当な手続きでなされたことを公の機関が証明すること」とあります。では、認識とはどんな意味なのでしょうか?国語辞典では「物事をはっきりと見分け、判断すること」とあります。ということは、手続き的には認識したうえで、間違いないと認証するという順番になるように思います。

では、顔検出とは何でしょうか?デジタルカメラやスマホなどで、レンズを人物の顔に向けると自動的に顔の位置を検出して四角形で囲ってくれる機能があります。この人の顔の位置を自動検出する技術を「顔検出(face detection)」と呼びます。顔検出は、「パターン認識」と「機械学習」により実現されています。

ですので、順番としては、まず誰の顔なのかはさておき、顔検出技術で人間の顔が存在する座標を取得すし、次に顔認識技術を用いて個人を認識し、あらかじめ保存されたデータと照合することで間違いなく個人を特定することで顔認証が実現するということになるといえそうです。顔認証では、撮影した顔の画像から、傾きや位置を検出して補正し、特徴点(眼の中心、唇の端など)の位置や点同士の距離などを計測し、データを照合して個人を特定するわけですが、人の顔は、髪型や表情、成長、老化、整形、病気、怪我によって変化するため、これらに影響を受けずに個人を特定しなければならないという難しさがあります。

さまざまな顔認証技術

① Gabor Wavelet 変換+グラフ・マッチング

顔器官上の特徴点間の弾性的な位置関係を持つ顔グラフと、その特徴点周辺におけるGabor フィルタによる濃淡特徴の周期性と方向性を特徴量として認識します。顔画像上に多くの特徴点を配し詳細に位置決めして特徴量を比較しているため、位置ずれ誤差や表情変化・顔向き変化に強いという特徴があります。また斜め顔からも高速に認証できるため、他手法では難しかった歩行中の人の顔認証を実現しています。

② PCA(主成分分析)によるEigenface(固有顔)

まず、多数の顔画像パターンの集合に対して主成分分析を行い、固有ベクトル(固有顔)を求めます。次に入力顔画像を固有顔の空間に射影し、登録された顔の射影との類似度により認識を行います。

③ Local Feature Analysis

固有顔の考え方をベースとしていますが、顔全体のパターンでは無く、顔器官( 鼻、眉、目、口、頬等) の局所的なパターンに対して主成分分析を行うことによって表情・顔向きなどに比較的安定した認識を実現しています。

④ 動画像ベースによる制約相互部分空間法

文字認識で用いられている部分空間法をベースとしていますが、入力を静止画像でなく、動画像を用いることにより、複数の顔パターンの分布の類似度に基づいて識別することができます。また制約部分空間に射影することにより、照明への影響を受けにくい効果があります。

⑤ ニューラルネットワーク

ニューラルネットワークを用いて顔検出、顔器官特徴点検出、認証を実現します。目・鼻の側面・口・眉・頬など濃淡コントラストのある領域を顔特徴として抽出し、数値化・正規化し、ニューラルネットワークによって学習します。

(財)日本自動認識システム協会 http://www.jaisa.jp/action/group/bio/Technologies/Facial/Fac.pdf より)

顔認識、顔認証の事例

〇 コンサートのチケット確認

チケット購入時にスマートフォン(スマホ)などで撮影した自分の顔写真をインターネットで送って事前登録します。当日、入口でチケットを提示するととともに係員のタブレットで顔を撮影して認証するというシステムです。

これによってチケットの転売が難しくなり、さらに転売を防止するための面倒な手続きが省かれ、結果として非常にスムーズな運営が行われることになります。

この技術は2014年から「ももクロ」のコンサートで導入されています。

〇 犯罪者検知

2014年に顧客の安全確保とサービス向上を目指してインドのホテルグループに顔認証システムが導入されました。ホテル内に設置したカメラに映った人物の映像を、警察から提供を受けた犯罪者データベースとリアルタイムに照合し、データベース内の人物と同一であると判定した際に、アラートを発するというものです。また、特定優良顧客の来訪をいち早く察知し、その顧客のニーズに合ったサービスを素早く提供することで顧客の満足度を高め、リピート率を向上させる効果も見込んでいます。

ロンドンでは、ニューアム・ロンドン特別区の監視カメラシステムに組み込まれた顔認識システムがあります。カジノにおける不正行為を総合的に監視、研究、分析、防止するために活動している民間諜報組織 Griffin Investigationsのカジノでのブラックリストに載っている人物を識別するシステムなどがあります。

〇 徘徊防止

住居や介護施設の出入り口に設置したカメラから対象者を顔認証技術で識別し、外出しようとした時に警告音とアラートで通知するシステムとなっている。

これまでのタグやセンサーを対象者に持たせる必要がないので、端末を持ちたがらないという問題もクリアーできます。なお、このシステムでは、徘徊を感知すると職員や家族のスマホに通知されます。

〇 万引き防止

このシステムは、店舗に設置された監視カメラの前を通過する人の顔面画像をすべて撮影し、万引の嫌疑を持たれた客、クレームをつけた客の顔面画像をシステム管理会社で「記録」します。こうした不審な客は、このシステムを導入する店舗に来店した場合、監視カメラが検知して店舗スタッフに知らせる仕組みです。ただ、この「顔認証万引き防止システム」は、個人情報保護法との関連で課題を抱えています。

〇 消費者に合わせた商品提示

顔認識とデジタルサイネージ(電子看板)を組み合わせ、客の性別、年代、さらにはその日の天候などに合わせて表示を変える自動販売機で、2010年にJR東日本ウォータービジネスというJR東日本のグループ会社が初めて手掛けました。

顔認証技術の課題

2015年6月、Google Photosが人間の顔をゴリラと間違えるミスがありました。前月の5月には、Flickrの顔認識ソフトウェアが黒人と白人の両方に「動物」と「猿」とラベル付けるということがありました。古くは2009年に、ニコンの顔判定カメラが、アジア系の人の顔の目を認識できず、人種差別だと問題になりました。HPでもアフリカ系アメリカ人の顔を認識できなかったことが問題となったことがあります。顔認証技術はまだ発展段階のものであると言えます。かなり精度は上がっているとはいえ、まだ下記のような課題をあるようです。

① 多用な照明変化への対応

② 顔の向きや眼鏡(有無の他にレンズの反射など)への対応

③ 表情・成長・双子などへの対応

④ 化粧、髭、眉・髪型の変化への対応

 

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