第4世代移動通信方式「4G」の次の世代である「5G」へ向けた取り組みが世界的に活発になってきています。まだ標準化の具体的な作業は進んではいませんが、技術的な要件については、業界での合意点が見えてきているようです。
〇 ITU-R
ITU-R(国際電気通信連合の無線通信部門)のWorking Party 5D(WP 5D)では、5Gを暫定的に『IMT-2020』と名づけて、標準化の準備を始めています。今年の半ばをめどに、ビジョン勧告(IMTVision)をまとめる予定とのことです。更にWP 5Dでは次のような作業スケジュールを策定し、2020年中の仕様完成を目指しているようです。
(http://www.itu.int/en/ITU-R/study-groups/rsg5/rwp5d/imt-2020/Documents/Antipated-Time-Schedule.pdf より)
〇 3GPP
モバイル通信の技術を決める団体3GPPでは、定期的にRelease 8でLTE、Release 10でLTE-Advancedというように仕様を策定してきていますが、NTTは2020年に5Gを実現させるためには、2016年に検討が始まる「Release 14」で5Gの基礎技術を、2017年後半の「Release 15」では機能拡張の仕様化を目指したいようです。3GPPでは具体的に、6GHz以上の周波数帯に関するチャネルモデルの検討を今年の9月から、5G検討範囲や要求条件に関する検討を12月から開始するとのことです。
〇 NGMN(Next Generation Mobile Network)
NGMN Alliance自体が標準化を行うわけではないのですが、参加企業の意見をまとめ、規格の調整を行っており、AT&T、ドイツテレコム、シスコシステムズ、クアルコム、アップル、NTTなどが参加しています。
同アライアンスでは、2015年から5Gのリクアイアメント(要求条件)などの定義、2016年から技術的ソリューションの分析、2017年半ばから5Gの標準化と認証などの検討、2018年から実証実験の結果の分析、2019年半ばからユースケースや実装ガイドラインの開発というロードマップを立てています。
(NGMN_5G_White_Paper https://www.ngmn.org/fileadmin/ngmn/content/images/news/ngmn_news/NGMN_5G_White_Paper_V1_0.pdf より)
〇 METIS
METIS(Mobile and wireless communications Enablers for the Twenty-twenty Information Society)は5Gの目標として、現状のネットワークと比較して、
・1,000倍のトラフィック容量を実現、
・10~100倍のデバイス、端末を接続
・10~100倍のデータ転送速度
・1/5以下の遅延時間
・1/10以下の省電力
を掲げています。下図は3Gや4Gとの特性の比較を示しています。
(エリクソン http://www.ericsson.co.jp/blog/2014/06/5g.html より)
下図は5Gのタイムプランです。
(METIS Radio access elements for 5G and the path towards standardization より)
〇 5G―PPP
5GPPPは、2013年に欧州委員会(EC:European Commission)が、第5世代(5G)携帯電話ネットワークの実現に向けて発足させた団体です。5GPPPでは2020年までに5Gを確定するために、次の目標を定めてその仕様検討・策定を行っています。
5GPPPの目標としては、
・2010 年時と比較して、1000 倍高い無線通信容量
・M2MやIoTのための仕様拡張
・90%のエネルギー削減
・サービス製作平均時間を90 時間から90 分に
・サービス提供の停止時間が感じられないような安全・信頼可能・依存可能なインターネット
・70 億人以上が利用する7 兆以上の無線端末が接続する無線通信リンクの濃密な展開促進
・利用者による進化したプライバシー制御
などが挙げられています。
(http://5g-ppp.eu/ より)
全般的なタイムスケジュールでは、2014 年と2015 年は共同研究開発期間、2015 年の世界無線通信会議(W RC)で周波数割当の準備、2016 年頃から標準化活動開始、2019 年のW RC で周波数割当、そして、2020 年の商用開始となっています。
〇 5GMF
2014年9月30日に、日本における第5世代移動体通信システム(5G)の研究開発を推進する場として、「第5世代モバイル推進フォーラム」(The Fifth Generation Mobile Communications Promotion Forum(5GMF))が発足しました。それまでは、ARIBに「2020 and Beyond AdHoc」という5Gに関するプロジェクトありましたが、5Gの推進体制強化を経済産業省が示したことを受けて設立されたものです。5GMFでは、今年中のWhite Paper発表を予定しており、さらに2017年からは5Gの総合実証を実施する計画です。
5Gの標準化に向けて様々な団体が活発な活動を展開していますが、5G-PPPは、ヨーロッパの資金を研究に割り振るためのフレームワークで、METISはベンダーが集まって共同研究する組織、5GMFは5Gのプロモーション活動や、実証実験を推進する場で、正式には標準化のための組織とは異なり、いわゆる任意団体です。とは言え、これらの5G検討団体から、5Gにおける主な要素技術の概要がWhite Paperとして発表され、5Gの基礎検討段階はほぼ完了したと言えます。今後は、TU-Rで標準化が進められていくことになると考えられます。
5Gの技術要件
現在はITU-Rでは5Gに関して3つの文書の策定が進められています。それは、5Gの基本コンセプトや要求条件などをまとめた勧告案「IMT VISION」、5Gを実現するための要素技術についてのレポート「TECHNOLOGY TREND」、5Gで利用が想定されている6GHzを超える周波数帯の利用可能性に関するレポート「IMT above 6GHz」の3つです。
そして、この中の「IMT VISION」の「案」には、ノキアが提案している3つの柱が採用されているそうです。3つの柱とは、
① モバイルブロードバンド
LTEの100Mbpsから最大10Gbpsへと引き上げる。(ピークデータレートで10Gbps)
② マッシブマシンタイプ
さまざまな機器がインターネットに接続するIoT(モノのインターネット)と同様の概念のサービス。(IoTやM2M用途への対応)
③ ウルトラリライアブル&ローレイテンシー
高い信頼性で、なおかつ低遅延の通信サービスの提供。(1ミリ秒以下の超低遅延性能や現状の1万倍といったトラフィックの処理)
(ノキア http://jp.networks.nokia.com/hirameki/103/1/ より)
これらは、他の団体のコンセプトともほぼ共通するものと言えます。下図はNTTの示す5Gの基本コンセプトです。
(NTT R&Dフォーラム2014より)
ITU-Rでは2016年から2017年にかけて、IMT VISIONで示された要求条件の評価方法などを検討して2017年後半にはそれを公表するそうです。そして、2018年に5Gの規格提案を募集する予定にしています。そののち2020年に5Gの技術規格が勧告化されることになります。