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ようやく動き出した日本の「空飛ぶ車」
2018年3月19日に、産業構造審議会の製造産業分科会が開かれ、「空飛ぶ車」などが議論されました。
分科会の資料によれば、「空飛ぶ車」の明確な定義はないが、「電動」「自動」「垂直離着陸」がひとつのイメージとしています。また、ヘリコプターと比べて、部品点数が少なく整備費用が安いこと、騒音が小さいこと、運航費用が安いこと、さらに既存のインフラに依存せず最速・最短の移動が可能といったことから「空の移動の大衆化」が進むと考えられているようです。
想定される活用としては、都市での活用では渋滞問題の解決、災害時の活用ではインフラの復旧等を待たずに人命救助、物資支援、離島や中山間地域の活用では、移動が不便な地域での移動や観光需要の創出などが考えられています。
資料は「空飛ぶ車」は、全く新しい社会を生み出し、多くの社会課題を解決するポテンシャルあるとしながらも、海外ではすでに多数のプレイヤーが存在するのに対して日本の動きの鈍さを指摘しています。その上で、国内の潜在的プレイヤーの参入を促すと同時に、先行する海外企業を日本に引きつけるためにも①技術開発(ものづくり)、②インフラ・制度整備、③担い手事業者の発掘(サービス)、④社会受容性向上、について官民連携で進めていく必要性を協調しています。その際、「空飛ぶ車」の将来ビジョンや2020年代の実用化に向けたロードマップを世界に先駆けて打ち出していくことも提案しています。
3月20日の経済産業省大臣の記者会見では、空飛ぶ車について「日本での実用化は、ちょっと周回遅れのような感もあるのですが、・・・・」との質問に、「・・日本では、現在空飛ぶ車に関する動きはまだ限定的ではありますが、・・・・新たなプレイヤーとなる方々が参入してくることを期待したい」と述べておられます。
日本ではトヨタ自動車グループなどの支援で空飛ぶ車「SkyDrive」の開発を進めているCARTIVATOR(カーティベーター)がありますが、既に多数のプレイヤーが「空飛ぶ車」に関するものづくりやサービスに進出している海外に比べると、かなり出遅れた感が否めません。
では、海外にはどんなプレイヤーがどんな「空飛ぶ車」を開発しているのでしょうか?
空飛ぶ車の事例
経済産業省の産業構造審議会での「空飛ぶ車のイメージは「電動」「自動」「垂直離着陸」としていますが、現在開発が進められている「空飛ぶ車」は、形状や飛び立ち方によって2つのタイプがあるようです。一つは、道路走行中は翼を畳んでおき、離陸の際に翼を開いて滑走路から飛び立つもので飛行機に近い形です。もう一つは産業構造審議会のイメージに近いもので、プロペラを装備し、ヘリコプターのよう垂直離着陸できるものです。
以下に、販売が開始されているものからコンセプト段階のもの、個人使用を想定したものから空飛ぶタクシーとしての近距離移動を想定したものなど、いくつか事例を紹介します。
〇 PAL-V Liberty:パルヴィインターナショナル
PAL-V Libertyはオランダのパルヴィインターナショナルが2018年より販売開始し、2019年に納品するというもので、価格は4千万円です。
地上を走行するドライブモードの場合は三輪車の形状となり、空を飛ぶフライトモードの場合はヘリコプターの形状に変形します。ドライブモードでは最高速度160km/h、フライトモードでは最高速度180km/hです。フライトモードへの変形に必要な距離は30m、必要な速度は50km/hです。運転するには自動車とヘリコプターの免許とパルヴィの認定が必要とのことです。
(https://www.pal-v.com/en/explore-pal-v より)
〇 EHang(イーハン)184
中国のドローンメーカーのイーハン社が開発する一人乗りの機体です。2018年中にドバイでの実用化を予定しています。
イーハン184の積載可能重量は100kgで最大時速100km、約23分間飛行することができます。自律走行機能を備え、機体に異常が検出されるとすぐに近くの安全な場所に着陸する「フェイルセーフ(fail-safe)機能」、電源の一部が消失しても、数分間の飛行が可能な機能なども備えているそうです。価格は30万ドルと予想されています。
(http://www.ehang.com/ehang184/gallery/ より)
〇 Air Taxi :Bell Helicopter
Uberとヘリコプター大手のベル・ヘリコプターが共同で開発しているもので、CES 2018で展示されました。4つの座席と大きな窓の卵型の機体です。時速約241kmで飛ばしたいと考えているようです。
(http://www.bellflight.com/company/innovation/air-taxi より)
〇 Volocopter
Intelが出資するドイツのスタートアップ企業Volocopter GmbH社が開発している2人乗りの大型ドローンです。将来的には遠隔制御や自律飛行により無人エアタクシーを目指しているようです。
9つの独立したバッテリーシステムを搭載し充電時間は120分以内です。モーターとローターはそれぞれ18基あり、本体重量 290kg、最大飛行距離は27km、最大速度 100km/h、高度は2000m以下、ホバリング高度は1650m以下、飛行時間は27分などとなっています。価格は約3,000万円と予想されています。
(https://www.volocopter.com/en/ より)
〇 Pop.up.next
Pop.up.nextはAirbusとAudi、Italdesignの「空飛ぶ車」の開発プロジェクト「Pop.Up」のアップデート版コンセプトで、2018年3月のジュネーブオートショーにおいて発表されました。
機体は、台車・本体・回転翼の3つに分かれたモジュール構造からなり、コンパクトカーの上部に4ローターを搭載したドローンが合体することで空飛ぶ車として利用するという仕組みです。
移動に際しては人工知能によって陸上と空を使い分けて最適な経路を選ぶようになっています。また、室内には49インチのスクリーンがあり、音声や顔認識システム、視線追跡操作システム、タッチ機能によって操作を行います。
(https://www.italdesign.it/project/pop-up-next/ より)
〇 Vahana
Vahanaは電動の8ローターを備えた一人乗りでAirbus が開発を進めています。2018年1月末には「Alpha One」モデルと言われる機体で初飛行をし、5mのホバーリングで53秒間対空したと報道されています。機体サイズは全長5.7メートル、全幅6.2メートル、全高2.8メートルで、離陸重量は745kgです。
目指しているのは個人での所有というよりも、アプリで呼び出し、目的地まで送り届けてくれるタクシーのようなサービスでの使用です。
(https://www.airbus-sv.com/press_releases/8 より)
〇 Lilium Jet
ドイツ・ミュンヘンのスタートアップLiliumが開発している電気VTOL(垂直離着陸)機です。2人乗りで、1度の充電で最高300キロ移動でき、最高速度は時速300キロ。36機の小型電動ジェットエンジンを推進力としています。すでに2017年4月にテスト飛行を成功させています。
(https://lilium.com/ より)
〇 Hover Coupe
イタリアのラッザリーニデザイン社が発表したコンセプトモデルで、実際に飛べるわけではありません。4基のタービンエンジンを搭載し、最高速度は550km/h、道路では地面から少し浮き上がった状態で走行する想定となっています。
(http://www.lazzarinidesign.net/HoverCoupe.html より)
〇 The Switchblade
アメリカの「サムソン(samson)・モーターズ」の空飛ぶ車で、2018年より発売開始をし、購入者が自ら組み立てるキット状態で12万ドルとのことです。
1.6リットルの水冷V型4気筒エンジンを搭載し、路上では最高速は200km/hで上空では305km/hで飛行できるとのことです。ボディはカーボンファイバー製で全長はおよそ6.2m、全幅はおよそ8.2mです。自動車から飛行機への変形にはおよそ3分となっています。
(https://www.samsonsky.com/ より)
〇 AeroMobil 4.0
スロバニアのAeroMobilが開発する二人乗りの空飛ぶ車です。AeroMobil 4.0は最高時速160kmでの走行が可能です。飛行形態への変形は3分未満で、2.0リッター/300馬力のエンジンを搭載し、航行距離は約750km、時速259kmでの飛行が可能となっています。価格は日本円で約1億5000万〜1億8000万円とされています。発売時期は2020年となっています。
AeroMobileは先日、4人乗りで電力を動力源とし、直離着陸(VTOL)が可能な「AeroMobil 5.0」のコンセプトを発表しています。
(https://www.aeromobil.com/ より)
〇 TF-X
テレフギア社が開発している4人乗りの垂直離着陸方式の空飛ぶ車です。最高出力300hpのエンジンと最高出力600hpの電気モーターを2基搭載し、最高速度は約320km/hで、航続距離は約805kmを想定しています。2025年の販売を目標にしているとのことです。
(https://www.terrafugia.com/tf-x/ より)