ナノカーレース

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ナノカーレース

2017年4月28,29日、フランスのトゥールーズにある材料精緻化・構造研究センター(CEMES)(※1)で、世界初の国際分子カー・レースが開催され、日本から出場した物質・材料研究機構のチームが途中棄権したものの「フェアプレー賞」を受賞したとのニュースが新聞等で報道されていました。

フランス国立科学研究センター(CNRS)が主催し、フランス・ドイツ・オーストリア・アメリカ・日本から6チームが参加して行われました。

レースは、「走査型トンネル顕微鏡(Scanning Tunneling Microscope)」という特殊な顕微鏡を使い、分子の車を見ながら探針で駆動力となる電子パルスを照射し、5K(摂氏マイナス268度)、そして真空に近い状態に維持された直径8mmの金の板の表面の溝を100ナノメートル(※2)走らせるというもので、制限時間は準備の6時間も含めて36時間となっています。ナノカーの大きさは100万分の1~3ミリという大きさです。

完走したのは、アメリカのライス大とオーストリアのグラーツ大の合同チームと、スイスのバーゼル大チームで、ともに1位となっています。3位はアメリカのオハイオ大学、4位はドイツのドレスデン工科大学のチームでした。ただ、ライス大とグラーツ大のチームはもっともはやかったようですが、一部の報道ではこのチームだけは、金ではなく銀の表面をコースとしていたあります。

参加チームの車の形はまちまちですが、6チーム中3チームは四つの車輪をもつ分子を採用し、4輪を回転させて進む設計のようです。日本チームは、両端の部分がバタバタ動いて進むのが特徴で、長さ2.1ナノメートル、炭素と水素、酸素の原子88個を組み合わせたものです。

nanocar_001_Rhttp://nanocar-race.cnrs.fr/indexEnglish.php より)

(※1)CEMESは、フランス国立科学研究センター(CNRS)に属する研究機関です。
(※2)1nmは1ミリメートルの100万分の一です。髪の毛の太さの約10万分の1から5万分の1、赤血球の1000分の1の大きさです。

2016年のノーベル化学賞とナノカー

優勝したライス大とオーストリアのグラーツ大の合同チームのメンバーにライス大学のJames M. Tour教授が参加しておられたようですが、James M. Tour教授は世界で初めてナノカーを作成した人物として有名です。

2005年に学会誌「Nano Letters」でナノカーに関する論文を発表しておられるようで、2006年4月の「CNET News」で、世界最小のナノカーをアメリカのライス大学が開発したことを取り上げています。

このときの記事では、ナノカーを前進させるナノモーターにオランダのグローニンゲン大学のBen Feringa教授が開発したものを搭載していると記しています。Ben Feringa教授は、2016年にフランスのストラスブール大学Jean-Pierre Sauvage教授、アメリカのノースウエスタン大学J Fraser Stoddart教授とともに、「分子マシンの設計と合成」への貢献によりノーベル化学賞を受賞しています。

また、2006年の朝日出版社のメールマガジン「辞書にない英語で世界がわかる」でも、科学・技術のニュースに登場した新語として「NanoCar」を取り上げています。そこでは「超微細車」といった日本語も見られます。

ところで、2016年のノーベル化学賞を受賞した3人とナノカーの関係ですが、Jean-Pierre Sauvage教授は、カテナンと名付けられた分子の鎖を高い効率で合成する方法を完成させました。この鎖状分子カテナンはナノマシンに必要な可動部分のパーツとして利用できるものです。教授の研究チームはさらにカテナンのリングを回転させ制御することに成功しています。ナノマシンの最初の成功例とも言われています。

J Fraser Stoddart教授は、輪が軸に挟まった形をしたロタキサンという分子を完成させ、ロタキサンコンピューターチップの開発にも成功しています。

そしてBen Feringa教授は、ロタキサンの回転を一定方向に制御しながら回転させることに成功し、世界で最初のナノモーターと言われています。

このような研究の積み重ねが、2005年のライス大学のJames M. Tour教授による世界初のナノカー、そして今回のナノカーレースへとつながっているようです。

nanocar_002(東京化成工業株式会社http://www.tcichemicals.com/ja/jp/support-download/tcimail/application/113-20.html より)

ナノカーの応用

ナノカーの実用化・応用はまだ先のようですが、今考えられているのは薬への応用です。人体の特定の細胞にピンポイントで薬を運んで治療しようというものです。ナノカーを使ったがんや認知症などの治療が期待されています。そして、「必要な薬物を必要な時間、適切な場所」に届けることを可能にする技術をDDS(ドラッグデリバリーシステム)と言いますが、いわば究極のDDSになるとも言われています。

また、電子回路をナノサイズで加工することで、小型で大容量のコンピューターの開発につなげるということも考えられています。さらに、原子単位での産業廃棄物の分解ということも考えられています。様々な方面でその応用が期待されているようです。

 

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