トランプ政権の科学技術政策

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就任演説に見る科学・テクノロジー

連日、テレビや新聞ではトランプ大統領の一挙手一投足に振り回されるかのように、主にその経済政策や移民政策について報道がなされています。しかし、トランプ大統領が科学技術に関してどうした政策を打ち出そうとしているのかについては、大統領自身あまり述べていないこともあってか、報道が少ないようです。

就任演説では、科学・テクノロジーに関して述べたのは、演説の終盤での「We stand at the birth of a new millennium, ready to unlock the mysteries of space, to free the Earth from the miseries of disease, and to harness the energies, industries and technologies of tomorrow.」というわずかなくだりだけのようです。日本語訳では、次のようになります。

「私たちはこの新世紀のはじめに、宇宙の謎を解き明かし、地球を病から解放し、明日のエネルギーや産業、そして技術を、利用しようとしています。」(NHK NEWS WEB  http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170121/k10010847631000.html より)

「私たちは新たな時代の幕開けにいます。宇宙の謎を解き、地球を疫病の悲劇から救い、明日の新たなエネルギー、産業、技術を活用する時です。」(朝日新聞 2017年1月22日より)

「私たちは、宇宙の神秘を解き明かし、悲惨な疾病から地球を解放し、将来のエネルギーや産業、技術を活用していく、新しい千年紀の誕生に立ち会っているのだ。」(読売新聞 2017年1月22日より)

また、トランプ政権発足と同時に6項目の主要政策を発表していますが、その中にも特に目立った科学・テクノロジーに関する政策は盛り込まれていないようです。あえて挙げれば、America First Energy Plan(米国第一エネルギー計画)に「President Trump is committed to eliminating harmful and unnecessary policies such as the Climate Action Plan and the Waters of the US rule.」(トランプ大統領は、気候行動計画や米国の水資源保護などの有害で不必要な政策を排除することをコミットしています。)と記されていることや国防に関して「最新鋭のミサイル防衛システム」、対テロで「サイバー戦略」ぐらいでしょうか?

投票前の10月下旬発表した、「アメリカを再び偉大にするための100日行動計画」でも、多少関連するものとすれば、American Energy & Infrastructure Act(アメリカ・エネルギー&インフラ法)で述べている「官民パートナーシップと税の優遇措置を通じた民間投資によって、10年間にわたって1兆ドルの基盤整備への投資を行う。」ということでしょうか。

ITIF報告書

Iscience_tech_002_RTIF(INFORMATION TECHNOLOGY & INNOVATION FOUNDATION:情報技術イノベーション財団)が2016年9月に発表した報告書「Clinton vs. Trump: Comparing the Candidates’ Positions on Technology and Innovation」には、演説や討論会、新聞などで表明したことをもとに、科学・テクノロジーの各分野ごとにクリントン氏とトランプ氏の考えをまとめています。

それを見ると、最初の項目である「イノベーションに対するポリシー」において、トランプ氏のことが「General lack of focus or specificity regarding tech and innovation policy. To the extent there is a sector focus, it is on traditional manufacturing.」と書かれており、「テクノロジーとイノベーションに対する政策的関心の一般的な欠如。製造業に関しては、局所的関心あり」と、かなり厳しい見方をしています。

また、イノベーションと研究開発に関しては「スタートアップと中小企業の支援」「起業家支援」「地域のイノベーション」「特許制度改革」のいずれの項目も不明(No position)となっています。その他のインターネット・デジタル経済、先進製造、生命科学においても不明が多く、唯一、教育とスキルに関しては、トランプ氏の見解が多く示されています。

教育においては、「・・which would promote STEM majors with high expected wages 」とあり、STEM専攻を推進することや、「Calls for education to be locally driven.Is against the Common Core, and has stated that he will dismantle it.」と全米共通学力標準に反対し、廃止を述べているとしています。

生命科学と農業バイオロジー政策では、国立衛生研究所(NIH)に関して、「Trump believes that a considerable amount of NIH funding is wasteful, stating, “I hear so much about the NIH, and it’s terrible.”」と(トランプは、かなりの量のNIH資金が無駄であると考えています。「私はNIHについて多くのことを聞いていますが、ひどいです。」)と記しています。

この報告書からも、トランプ大統領の科学・テクノロジーに関する政策がはっきりとは見えてきません。逆に言えば、雇用創出や移民対策に比べると優先順位が低いともいえるのかもしれません。
(ITIF「Clinton vs. Trump: Comparing the Candidates’ Positions on Technology and Innovation http://www2.itif.org/2016-clinton-vs-trump.pdf 参照)

ScienceDebate.org報告書

science_tech_001_RScienceDebate.org報告書「The Candidates’ Views on America’s Top 20 Science, Engineering, Tech, Health & Environmental Issues in 2016」は、科学技術に関する20の質問状に対する両候補の回答です。

トランプ氏の回答はどの質問に対しても短く、例えば最初のイノベーションに関しては、クリントン氏が34行にわたって述べているのに対して、トランプ氏は12行です。13番目のグローバルな課題(地球課題)では、クリントン氏が42行に対してトランプ氏はわずか10行です。

そんな短い回答の中からトランプ氏の科学・テクノロジーに関する考えを見てみると、質問3の「気候変動」に関しては、「気候変動の存在」の調査の必要性や、それよりも食料生産やエネルギー問題に予算を利用すべきとしています。「地球温暖化」に否定的な反面、風力、太陽、バイオ燃料、原子力等の探索・開発を挙げています。

就任演説で述べた「宇宙」に関しては、宇宙探査におけるイノベーション支援実現可能な宇宙研究の推進を挙げています。また、質問16の宇宙で「A strong space program will encourage our children to seek STEM educational outcomes and will bring millions of jobs and trillions of dollars in investment to this country.」(強力な宇宙計画は、私たちの子どもたちにSTEMの教育成果を求めるよう促し、数百万の雇用と数千万ドルの投資をこの国にもたらします。)と述べ、さらに「Observation from space and exploring beyond our own space neighborhood should be priorities.」(宇宙からの観測と私たち自身の宇宙周辺の探検は優先事項でなければなりません。)と宇宙技術やSTEM教育には理解を示しているようです。ただ、前後の文章からは、宇宙開発が偉大なアメリカの象徴であり、STEM教育は雇用と結びついているようにも感じられます。

前述のITIFの報告書中で国立衛生研究所(NIH)についてかなり厳しい表現をしていましたが、質問9の公衆衛生では、「We cannot simply throw money at these institutions and assume that the nation will be well served.」と公衆衛生分野の政府機関へ単にお金を投じて役立つとは仮定できないとと、やはり厳しい姿勢です。
(ScienceDebate.org http://sciencedebate.org/goods/2016answers.pdf 参照)

科学技術に関する具体的な政策は、この後の一般教書や予算教書によって明らかになってくるものと思いますが、どんな政策がだされてくるのか少々気になるところです。

参考資料

(ITIF「Clinton vs. Trump: Comparing the Candidates’ Positions on Technology and Innovation http://www2.itif.org/2016-clinton-vs-trump.pdf )

(ScienceDebate.org「The Candidates’ Views on America’s Top 20 Science, Engineering, Tech, Health & Environmental Issues in 2016 http://sciencedebate.org/goods/2016answers.pdf )

(科学技術振興機構(JST) 研究開発戦略センター 海外動向ユニット「2016年米国大統領候補 科学技術政策について」、「米国トランプ大統領就任演説について」http://www.jst.go.jp/crds/report/report06/index.html )

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