テラヘルツ波

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宇宙×ICTを支える基盤技術

テラヘルツ波は、電波と光の中間の性質を持ち、発生・検出共に技術的困難があったため、長年、未開拓電磁波と呼ばれてきました。このテラヘルツ波が、先日(2017年8月)発表のあった「宇宙×ICTに関する懇談会報告書~ ICTが巻き起こす宇宙産業ビッグバン ~」において、「宇宙×ICTを支える基盤技術」の一つとして取り上げられていました。

報告書は6章で構成され、87ページあります。それぞれの章のタイトルは、「第1章宇宙新ビジネス時代の到来」、「第2章世界規模で展開する宇宙分野のICT利活用競争」、「第3章新たな価値を創造する宇宙×ICTの重点4分野とこれらを支える基盤技術」、「第4章宇宙×ICTがもたらす私たちの近未来社会」、「第5章宇宙×ICT総合推進戦略」、「第6章宇宙×ICTの着実な推進に向けて」となっています。

第3章で「宇宙×ICTを支える基盤技術」について述べられていますが、ここでは基礎技術を4つ挙げています。一つは「衛星セキュリティ技術」、二つ目は「テラヘルツ技術」、三つ目は「ナノRFエレクトロニクス技術」、四つ目は「時空計測技術」です。

テラヘルツ波とは

テラヘルツ波は下図のようにミリ波、サブミリ波、遠赤外線の領域に重なっています。図では0.1THz(100GHz)~ 10THz(波長 3mm~30μm)となっていますが、もう少し狭く0.3THz(300 GHz)~ 3 THz(波長 1 mm ~ 100μm)の周波数領域とする場合もあるようです。これは、電波法によって電波は赤外線よりも波長の長いもので、3,000GHz(3THz)以下の周波数の電磁波とされているためです。

ちなみに、ミリ波(波長1mm~10mm、周波数30Ghz~300Ghz)、サブミリ波(波長0.1mm~1mm、周波数300Ghz~3Thz)は「波長」が名称になっていますが、テラヘルツ波は周波数でつけられた名前です。赤外線、可視光、紫外線などは色で付けられた名前となっています。

thz2017_001_R(NICT http://www2.nict.go.jp/advanced_ict/ACnet/reikai/IH.pdf より)

テラヘルツ波の特徴/性質

テラヘルツ波の厳密な定義はないようですが、遠赤外線からミリ波にかけての電磁波領域と重なっているといえます。そのため、電波の透過性と光波の直進性という性質を有しています。このことは、光を通さないもの、例えば紙や布などでも透過して中身を見ることができるというになります。プラスチック、セラミック、シリコン(ケイ素:Si)、衣類、木材、紙、タイルなどを比較的良く透過します。人体にあてても、エネルギー的には非常に小さいので影響は少ないと言われています。

また、周波数が高いので一度にたくさんの情報を送ることができ、光通信で実現されている100Gビット/秒級の無線通信が可能とされています。一方で障害物を回り込まないこと、酸素や水分子の共鳴吸収等による減衰が発生するといったデメリットもあります。
さらに、テラヘルツ波の周波数は、物質を構成する分子に特有の振動モードとほぼ一致するため、生体分子の固有振動からこれらの分子を検出・識別することができます。

テラヘルツ波のこれらの特徴や性質を利用することで、医療、製薬・創薬、美容・健康、バイオ、農業、セキュリティー、エネルギー、環境、そして情報通信などさまざまな分野への応用が期待されています。例えば、医療ではテーラーメード医療、農業では分子機能制御、セキュリティーではセキュリティーゲートや異物検査、そして通信では大容量データ無線通信などです。

テラヘルツ波無線通信

無線通信では、電磁波の周波数が高いほど単純な変調方式でもより速い通信を行うことに適しているとされており、テラヘルツ波では、4Gの約1,000倍、5Gの5~100倍程度に高速化された100Gビット/秒級の無線通信も可能とされています。

また、テラヘルツ波は波長が短いわけですが、電波を送受信するアンテナは波長が短いほどサイズを小さくできることから送受信機を小型できるというメリットがあります。60Ghz帯と比較すると、300Ghz帯では、同じアンテナ利得を得られるアンテナの直径は1/5、面積では1/25となります。

テラヘルツ波は、大気による減衰の影響を受けますが、300GHz付近は比較的大気中の水分による吸収が小さく雲などを透過しやすいことから、宇宙でのテラヘルツ無線通信には300GHz帯の周波数が有望視されています。60Ghz帯(ミリ波)での待機減衰は10~13db/kmなのに対して、300Ghz帯は3~10db/kmとなっています。

このように、テラヘルツ帯無線、特に300Ghz帯の場合には、小型化、簡易な変調方式での高速伝送可能、大気減衰が小さいといった特徴があります。

昨年(2016年)、広島大学、情報通信研究機構、パナソニックは共同で、300GHz帯単一チャネルで毎秒105ギガビットという、光ファイバに匹敵するテラヘルツ送信機の開発に成功しています。実験では、直径1cmのアンテナを使い、約10cmの距離で無線通信を行われました。毎秒105ギガビットというのは、現在のスマートフォンの100~1000倍高速で、DVD1枚分の情報を約0.5秒で伝送できるそうです。

実は速そうに思える光ファイバーですが、ガラス製の光ファイバを伝搬する光の速度は空気中よりも30%ほど遅くなります。空気中の速度はおよそ30万km/sですが、光ファイバーでは20~21万km/sといわれています。そのため、リアルタイム応答を必要とするアプリケーションにおいては、大気中を光と同じ速度で伝わるテラヘルツ無線が大いに期待されます。

テラヘルツ波による高速無線通信の応用例としては、キオスク端末にスマホをかざすことで映画などの大容量データを入手できる「タッチ・アンド・ゲット」やインテリジェント手術室内の無線化、データセンターの無線化などの他、静止軌道衛星上にスーパーコンピュータを設置しデータ転送を行う、月面にストレージサーバを設置しデータ伝送を行うといったことも考えられれているようです。さらに、5Gにおける小規模セルの通信局と無線制御部とのフロントホールに光ファイバーではなくテラヘルツ波無線を使うことも考えられているようです。

このように期待されるテラネルツ波帯を使った無線通信ですが、前述の報告書では、テラヘルツ波を宇宙に活用するための基盤技術の研究開発として、テラヘルツ帯半導体集積回路技術、テラヘルツ帯アレイアンテナ技術、テラヘル帯無線実装技術、大容量高速データ変復調技術等の確立を挙げています。また、テラヘルツ帯のシステム化技術の開発として、センサ/無線通信モジュールの小型化・軽量化技術等を挙げています。

宇宙ビジネスへのテラヘルツ波の応用については、リモートセンシグ、宇宙データ利活用、ブロードバンド衛星通信、衛星上データセンター、災害時テンポラリの小型低コスト高速通信衛星を挙げています。

thz2017_002_R(宇宙×ICTに関する懇談会報告書~ ICTが巻き起こす宇宙産業ビッグバン ~ 平成29年8月8日

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