ARの範疇
AR(Augmented Reality)日本語では拡張現実と呼ばれていますが、3Dのリアルな恐竜を登場させることができるアプリ、風景を撮影するとこれから降る雨の様子をリアルに再現するアプリ、日本各地の様々な山にカメラをかざすとその山の名前などの情報が表示されるアプリ、端末を雑誌にかざすだけで購入できる商品が浮かび上がるアプリなど、現実空間に重なるデジタル情報でこれまでになかった世界を構築するARが身近になってきました。
AR(Augmented Reality)とは、現実の環境とそこから得られる様々な知覚情報に、デジタル情報を追加する技術です。現実世界にそれを補うデジタルな世界が重なり、実際には存在しない「新たな現実」が感覚に働きかけてきます。
ARというと視覚的なものを想像しがちですが、人の感覚に働きかけてくるものですから、視覚だけでなく聴覚、嗅覚、触覚、味覚などの5感を拡張するものと捉えることが出来ます。例えば音声によって聴覚的な情報を提示したり、あるいは匂い・香りのようなもので嗅覚的な情報を提示することもARの範疇の中に含まれます。
(先端IT活用推進コンソーシアムビジネスAR研究部会2014年9月29日より)
味覚のAR
AR技術を使用し、視覚と嗅覚の情報を加えることで、プレーンなクッキーをイチゴ味やチョコ味のように感じさせる技術「Meta Cookie」は、東京大学 廣瀬・谷川研究室が研究を進めています。味覚は舌で感覚の他に、見ため、匂い、触感、記憶などが脳内で統合されることで認識される味(=「風味」)が決まるそうです。そこで、視覚・嗅覚を操作することで、味覚を変えようというのがこの研究のようです。
例えば、バタークッキーを用意します。そのバタークッキーを特殊ゴーグルを通して見るとチョコレートが塗られて見えるようにします。次に嗅覚を刺激する為に、チョコレートの香りを出します。するとそれを食べた人はチョコレートクッキーの味に感じるというのです。カメラの映像や香りを変えれば、イチゴ味やバナナ味にもなります。クッキーに対し、視覚情報と嗅覚情報を重畳することで、クッキーの「風味」を変化させ、食べる人が受け取る味の認識を変化させるシステムが「Meta Cookie」です。
(Meta Cookie: a mixed-reality cookie which changes its taste TAKUJI NARUMI† TOMOHIRO TANIKAWA‡ MICHITAKA HIROSE より)
触覚のAR
2014年2月にバルセロナで開催される「Mobile World Congress 2014(MWC)」での富士通研究所が開発した触覚技術により、ツルツル感やザラザラ感といった触覚が得られるタッチパネルを搭載したタブレットを発表しました。
振動などで凹凸感を感じさせる技術はあったのですが、そこで発表されたのは、難しいとされたツルツル感を再現したことに特徴があります
タッチパネル表面を超音波振動させることにより、パネル表面と指との間に高い圧力の空気膜を発生させ、その浮揚作用により摩擦力が低減します。この現象を利用してツルツル感を感じるようになっています。
また、パネル上を操作する指のタッチ情報と画面の表示情報に応じて摩擦力の高低を瞬時に変化させることで、ヒトに触感の錯覚を誘発し、画面に凹凸感やザラザラ感を実現しています。
(富士通 http://pr.fujitsu.com/jp/news/2014/02/24.html?nw=pr より)
MWCに展示された試作機では、「琴」、「DJ」、「金庫」、「ワニ」の感覚が展示されていました。
琴では、実際に弦を弾いているかのような感触を得ることができます。 DJでは、CD表面のツルツルとした感触をはじめ、実際にレコード盤を動かしてリミックスをさせているような感覚や、音量など操作バーの凸感等を得ることができます。金庫では、ダイヤル錠を回す感覚が実感でき、さらにロック解除を音と触感で確認できます。ワニでは、ワニの画像を触ると、触った部位にあわせた異なる触感を感じることができます。
(富士通 http://pr.fujitsu.com/jp/news/2014/02/24.html?nw=pr より)
嗅覚のAR
Scentee株式会社の「鼻焼肉キット」は、焼き肉気分を楽しめるというiOS用キットです。iPhone/iPadに装着する香り噴出器「Scentee」と専用アプリを組み合わせ、焼き肉の香りを再現します。「カルビ」「牛タン」「じゃがバター」の3つの香りを楽しめます。
焼肉を食べた気になって、体に染みつく臭いや口臭、そしてカロリーを気にせずにご飯をおいしく食べようというわけです。
(ITmedia ニュースhttp://www.itmedia.co.jp/news/articles/1310/01/news106.html より)
平衡感覚のAR
三半規管へ刺激を与えて平衡感覚をコントロールするというものです。けがなどにより、身体能力が欠如してしまった人への身体能力サポートが狙いです。これは、高齢者の運動支援にも期待ができ、地図情報やGPS情報と連携することで、効果的な歩行案内による支援を行うことができます。
例えば、靴底が傾くことで着用者の身体バランスを制御し、足を動かせば何も考えなくても目的地にたどり着くということが可能となります。
(日立総合計画研究所 http://www.hitachi-hri.com/research/keyword/k67.html より)
空間のAR
手のジェスチャーでコンピューターを操作する3次元入力デバイスを米リープモーション社が開発しました。立体視ができるヘッドマウントディスプレーの「オキュラスリフト」を頭にかぶると、本人の周囲の実際の空間に、パソコンのウィンドウ画面や操作ボタンの画像、チャットする同僚や友達の小さな顔写真が置かれていて、それを指先だけで直感的に操作するというものです。
空中のボタンを押したり、リストを上下にスクロールしたり、いくつもあるウィンドウの中から一つを選んだり、さらにはウィンドウを開閉したり、大きさを変えたり、直感的な手の動きだけで操作できます。立体映像なので、ボタンなどが周囲の風景の中で浮かんで見えます。
(ニュースイッチ https://newswitch.jp/p/1289 より)
ARの情報発信
ARの現状はより意義ある情報を「受け取る」方に開発の主力が注がれているように感じます。今後はこれに加えて、人やモノからARの技術を使って情報を「送り出す」ことも研究の対象となっていくようです。
日立総合計画研究所では、今後のAR研究の分野として地祇の3点を例として挙げています。
① 人間の体調を色やアニメーションで表現し、相手のヘッドマウントディスプレイ上に表示させる。
② 身に付けているRF-IDやセンサが周辺の自動車に情報発信することで、見通しの悪い場所での事故を未然に防止する。
③ 建物の劣化状況などをセンサで察知し、画像化して対策個所と方法を可視化させる。
(日立総合計画研究所 http://www.hitachi-hri.com/research/keyword/k67.html より)
これは単に言葉や数値化した情報を可視化するというのではなく、よりリアルに現実感を付加することなのだろうと思います。ARの双方向化とでもいうのでしょうか?今後の動向が注目されます。