Facebookの「M」
2015年8月末、Facebookがサンフランシスコのベイエリア限定ながらパーソナルアシスタントサービスを開始したとのニュースがありました。同社の膨大なデータを利用して有益な情報を提供するもので、「M」と名付けられています。Facebookは、「M」は、「出産祝い用のギフト探しから誕生日に贈るお花の注文にいたるまで、あらゆるユーザーニーズをサポートする」とうたっています。
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(https://www.facebook.com/Davemarcus/posts/10156070660595195 より)
Siriなどの機能と似ているようですが、ユーザーの質問の答えるだけでなくフォローアップの質問をして、その答えに応じた追加情報を提案したり、機械が対応しにくい種類の質問については人間が返答を手伝うことで、より人間らしいAIに進化していくようになっているのが特徴のようです。
情報を検索し提示するだけだと会話は答えを得た時点で終了してしまいます。Mは、ユーザのニーズのさらに先のニーズを考え、ユーザに提案を行っていくことでユーザに驚きと発見を与え、より人と人との自然な対話に近い状況を築き上げようというのがコンセプトのように感じられます。
ちなみに「M」は、開発中は「Moneypenny」と呼ばれていました。Wikipediaによれば、Moneypennyは「ボンドの上司」で、Mは「イギリス情報局秘密情報部(MI6)の長官」とあります。Mは007からつけた名前のようです。
AppleのSiri、GoogleのGoogle Now、MicrosoftのCortana、そして今回のFacebookのMの登場で、人工知能の開発がますます加速しそうな予感がします。
パーソナルアシスタント
Apple の「Siri」、Googleの「Google Now」、そして今回サービスが始まったFacebookの「M」などは、パーソナルアシスタント(personal assistant)あるいはインテリジェント・パーソナルアシスタント(Intelligent personal assistant)と呼ばれています。様々な異なる種類の情報を一括して扱い、ユーザーの要望に応じて最適な情報を、まるで個人秘書のように提供するものです。Siriのようにユーザーの問いに答えて情報を提示してくれるものもあれば、Google Nowのようなあらかじめ必要な情報を用意して提示するプッシュ型とよばれるものもあります。
現在は、各社から様々なパーソナルアシスタント機能を持ったアプリケーションが提供されており、次のようなものがあります。
- Apple Siri(Apple inc.)
- Google Now(Google)
- Microsoft Cortana(Microsoft)
- Vlingo(Vlingo inc.)
- Maluuba(Maluuba inc.)
- S Voice(Samsung)。
- Voice Mate(LG Electronics)
(出典)総務省「ICT先端技術に関する調査研究」(平成26年)
Now on TapとProactive Assistant
2015年5月末にグーグルが「Google I/O 2015」を、6月初めにアップルが「WWDC 2015」を開催しました。開発者向けに自社OSをはじめとする最新技術を紹介するイベントです。
同イベントでは、Androidの最新バージョン「Android M」(仮名)と、アップルの最新バージョン「iOS 9」を発表し、両社ともパーソナル・アシスタント機能を強化していたことが注目されていたようです。
グーグルが発表したのは、Google Nowの新しい機能である「Now on Tap」です。これは、ユーザーが見ているメールや聴いている音楽の内容などからその文脈を読み取り、ユーザーの行動を予測して関連する情報を提示するというものです。
アップルは、「Proactive Assistant」という機能を発表しました。これは、ユーザーのスマートフォンの操作(メールやカレンダー、サービスやアプリの利用履歴と時間など)や場所などから、これからユーザーがどのような行動を起こすかを予測し、先回りして情報を提示するというものです。例えば、iPhoneにヘッドフォンを接続すると、いつもランニング中に使っている曲がスタンバイします。
「Now on Tap」も「Proactive Assistant」も目指すところはよく似ているように感じます。オンラインショッピングなどで、利用者の好みにあった物品やサービスを推薦するレコメンドというものがありますが、それに近いものを目指しているように感じます。
かつて、人間と機械の関係において、人間は機械を使いこなす立場でした。そうした能動的なかかわりがだんだん薄れて、スマートフォンが提案してきた情報を基にユーザーが行動するというような受け身の関係に代わりつつあるように感じます。
インターネット上の情報があまりに膨大になりすぎたからなのか、ユーザーの自分に適した情報を得る能力が劣化したためなのか分かりませんが、こうした傾向がますます加速していくことは、人々の生活だけでなくものの考え方も変えていくことになるでしょう。そうした先にある未来がどんな世界なのか、少々不安も感じてしまいます。