フィクションで描かれたITC社会の未来像(情報通信白書から)

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情報通信白書(平成27年度版)

総務省は2015年7月28日に平成27年度版「情報通信に関する現状報告」いわゆる情報通信白書を発表しました。「第1部ITCの進化を振り返る」「第2部ITCが拓く飛来社会」「第3部基本データと政策動向」の3部構成で、約500ページになっています。

今回で43回目となる白書ですが、27年度版では、特集テーマを「ICTの過去・現在・未来」とし、

過去から現在を経て未来に至る時間軸を切り口として、昭和60年の通信自由化を起点とする我が国のICT産業の発展とICT利活用の進展を振り返るとともに、ビッグデータ活用の進展やモノのインターネット化(IoT)といった近時の技術動向も踏まえつつ、「地域」「暮らし」「産業」という3つの観点から、社会全体のICT化に向けた中長期的な未来像を展望しています。(http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01tsushin02_02000084.html より)

として、今年が日本電信電話公社がNTTとして民営化され、通信自由化30周年の過去を振り返り、未来を展望する構成にしたとのことです。そして、この30年間で通信事業者の売上高は約4倍、ICT産業の市場規模は約2.4倍に拡大し、ICT産業は日本の経済成長に貢献しているとしています。今後についても、様々なモノをインターネットにつなぐIoTが10年で5倍に拡大すると試算し、様々なデータを収集・分析し、業務効率化につなげる動きが活発化すると指摘しています。

試算によれば、ネットにつながるモノの個数が2020年に530億個になり、特にIoTの普及が進むのは消費者向け家電などで、2020年にはネットにつながる機器が130億個を超すとしています。さらに、白書では、地方でも情報通信技術の利用が進めば、約20万人の雇用創出効果が見込めるとの試算し、「地方に移住する人を後押しできる」としています。

今回の白書の特徴の一つは、各章の後の「フィクションで描かれたITC社会の未来像」と題するコラムです。ここではジュール・ヴェルヌの小説「月世界旅行」「スーパージェッタ」「ジャイアントロボ」「鉄腕アトム」「ドラえもん」「機動戦士ガンダム」「2001年宇宙の旅」「スター・ウォーズ」などで描かれた未来社会と現実のロボットなどを比べてどの程度実現しているかについて分析しています。空想世界で描かれたものは現実に近づきつつあり、一部は形を変えて実現しているとしています。ただ鉄腕アトムにしろドラえもんにしろ、そのキャラクターを特徴づけている「心」の機能はまだ開発されてはいないとしながらも、人工知能の開発に期待感を示しています。

コラム「フィクションで描かれたITC社会の未来像」から

コラムで取り上げているフィクションとの対比についていくつか紹介したいと思います。

1 ITC端末

〇 ジェッタ―のウェアラブル

itc_00230世紀の未来からやってきたタイムパトロール隊員のジェッターを描いたこのアニメには様々な未来の装備が登場します。コラムでは特にジェッタ―の身に付けているものに着目しています。

『流星号、流星号、応答せよ!』とジェッタ―が腕に付けたタイムストッパーに呼びかけます。このタイムストッパーは周囲の時間を30秒だけ止めることができ、流星号の呼び出し機能、トランシーバー機能を持っています。ジェッタ―の頭には透視能力のある赤外線透視ゴーグル、腰には重力を中和することで飛行を可能にする反重力ベルト、相手を一時的に痺れさせるパラライザー銃を装備しています。さまざまなウェアラブル機器を装着しているわけです。もちろん重力を中和するなどというのは非現実的ではありますが、こうした身に付ける装置(ウェアラブル)はコンピューターの小型化、高速化、高性能化により、現実化しつつあります。白書では、そうしたものとしてスマートウォッチ、指輪型や帽子型、靴型などその他のウェアラブルデバイスも数多く現れてきているとしています。中でも特にウェア型のデバイスで、繊維にセンサーが織り込まれた衣服や、繊維自体がセンサーや通信回路の役割を果たす衣服に着目しています。

ウェアラブルではありませんが、ジェッタ―の乗る流星号は音声認識による遠隔操縦が行われ、自律して走行する機能を持っています。まさに今盛んに開発競争が展開されている「自動走行車」を思わせます。

(画像はTBS提供:情報通信白書より)

〇 ジャイアントロボの音声認識

ジャイアントロボは横山光輝の作品で、1967年放送された特撮テレビ映画です。ジャイアントロボは声紋認証機能が付いた腕時計型の音声認識操縦機で操縦されています。横山光輝といえば「鉄人28号」有名ですが。鉄人28号は少年探偵・金田正太郎君のリモコンによって操作されていました。

操縦システムは音声登録、音声認証式で、初起動の際に声を登録した者の命令にしか従わない仕組みです。

ジャイアントロボで描かれる音声登録、音声認識といった技術は、現在では一部で実用化されています。有名なところではSiri(Speech Interpretation and Recognition Interface)があります。また、Shazamは音楽検索アプリで、マイクに向かって鼻歌を歌ったり、スピーカーに近づけるなどしてメロディを入力することで、該当する曲を検索することができます。

白書では、こうした音声認識機能を大作少年がロボに下す命令や呼びかけと対比しています。そして、

『飛べ!ジャイアントロボ』、『メガトンパンチだ』、『ミサイルロケット発射!』といった出撃、攻撃に関する数パターンの短い指令については対応できると考えられるが、怪獣が暴れているような大騒音の中で、正確な音声認識ができるかどうかは疑問が残る。また、戦いの中での『がんばれ!』、『負けるな!』といった抽象的な命令に対しては、仮に音声認識ができたとしても、より高性能な人工知能が開発されない限り、対応できないだろう。

としています。

2 映像配信技術

〇 「 ウルトラセブン」「サンダーバード」「スターウォーズ」等の相互映像通信

「ウルトラセブン」は地球防衛軍極東基地に所属する「ウルトラ警備隊」が地球侵略を企む宇宙人と戦く活躍を描いた特撮映画です。ウルトラ警備隊の標準装備として「ビデオシーバー」というウェアラブルの双方向映像通信機が登場します。ビデオシーバーは、腕時計型のテレビ電話で、カバーの裏側がスクリーンになっており、相手の映像を見ながら通話ができます。

当時はこれだけでも夢のような機器でしたが、現在のスマホなどはすでにビデオシーバーの性能を圧倒していると言えるでしょう。なお、2007年に放送された「ULTRASEVEN X(ウルトラセブンエックス)」に登場した、エイリアン対策組織DEUSのエージェントたちが使ったビデオシーバーには、調査機能やGPS機能の他に反重力機能が搭載されていました。さすがに反重力機能は難しいでしょう。

1965年に放送された「サンダーバード」の中にも、相互映像通信は登場します。悪役フッドが、スクリーン付の公衆電話機からロンドン空港に電話をかけて超高速旅客機に爆弾を仕掛けたことを伝える場面があり、そこではフッドが正体を隠すためにスクリーンの機能をキャンセルした画面には『SOUND ONLY SELECTED』の文字が並んでいます。

またサンダーバードの司令室には、隊員の肖像画が飾られており、隊員との通信時には肖像画の眼が光るとともにスクリーンに切り替わり、双方向の映像通信が開始されます。

「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」では、ホログラフィを使った三次元映像が物語のキーとして印象的に描かれています。レイア・オーガナ姫が帝国軍に捕まる寸前に助けを求めるメッセージをロボット(ドロイド)のR2D2に託すのですが、そのメッセージとして使われたのがホログラフィを使った三次元映像です。ホログラフィは三次元映像を記録し、再生するための技術として登場していますが、その後のシリーズでは、長距離通信の手段としても使用されています。相互通信を行うときは、利用者同士がお互いの三次元映像を見ながら同じ部屋にいるような状態で会話するわけです。

現代においては、三次元映像を使った演出は3D映画、3Dテレビ、ホログラフィック・ディスプレイなどで実現していますが、スター・ウォーズのように何もないところに三次元映像を映し出し、通信に用いる技術はまだ開発段階です。

白書ではこの他にも、1982年に放送を開始したテレビアニメシリーズ「超時空要塞マクロス」とその続編作品や外伝作品を含む作品群である。「超時空要塞マクロス」、1994年に放送された「マクロス7」などの「マクロスシリーズ」の「フォールド通信」という超高速大量通信システムなども取り上げています。

3 仮想現実技術

〇 仮想現実「味ラジオ」(星新一)

「味ラジオ」は星新一が1967年に発表したショートショートです。歯の内部に収まった受信機でラジオから放送される「味」を受信し様々な味が口の中に広がるというものです。視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚といった五感の情報通信技術については現実に研究されており、ロボットを通して触感を伝達する「テレイグジスタンス(Telexistence)」もあります。

白書では、東京大学名誉教授の舘暲教授が率いる開発チームの布や紙に触れた際の細やかな感触を伝えられる遠隔操作ロボットシステムTELESAR V(テレサファイブ)を紹介しています。このTELESAR Vでは、操縦者はロボットが物体に触れた際の“すべすべしている”、“ざらついている”、“熱い”、“冷たい”といった感覚や頭部搭載型ディスプレイ(HMD)に映し出される3D映像をあたかも操縦者がロボットと一体化したような感覚を得ることができます。

〇 仮想現実「ホロデッキ」(スタートレック)

スタートレックシリーズにはホロデッキと呼ばれる装置が登場します。数メートル四方の立方体の部屋で、ホログラム映像、遠景を表現するために使われる映像、ホログラム映像に実体を持たせるフォースビームなどが組み合わされて使われており、現実とほとんど変わらない仮想現実の世界を作りだします。

白書では「ホロデッキ」との対比でマイクロソフトのキネクトとNorthrop Grumman 社の「Virtual Immersive Portable Environment(VIPE)を紹介しています。

キネクトが医療や障害者支援、介護といった分野から、衣料販売やエンタテインメントの分野まで、当初の想定を超えて創造的に活用されていることやVirtual Immersive Portable Environmentが軍の訓練だけでなく、銃撃事件や人質事件に対する警察や災害時の救援隊の訓練に活用する方向も探られていることなどを取り上げています。そして、

現実の物をそこに出現させることは難しいが、実体の感覚を得る技術としてテレイグジスタンスの活用は有効になるだろう。「スタートレック」のホロデッキはまだ実現していないが、そこに向かった歩みは確実に進んでいる。

と結んでいます。

〇 光学迷彩( GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊)

「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」は1995年に公開された士郎正宗の原作、押井守監督のアニメ映画です。主人公である草薙素子が光学迷彩服を身にまとい、怪しく微笑みながら夜景に溶け込んでいく印象的なシーンが描かれていて、のちの攻殻機動隊シリーズでは頻繁に登場する装備です。

この光学迷彩の技術については、NHKのサイエンスゼロでも取り上げていましたが、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科の稲見昌彦教授らの研究である「人間が透明に見えるマント」「車体の後部が透明になって外部が見える“透明プリウス”」などがあります。

白書では、実際に開発した技術と「攻殻機動隊」との関係についての稲見昌彦教授へのインタビューも掲載されています。

〇 もしもボックス(ドラえもん)

ドラえもんと言えばひみつの道具です。原作マンガだけで1,600種類に及ぶひみつ道具が登場しているそうです。その中の一つに「もしもボックス」があります。『もしもこんなことがあったら、どんな世界になるか』を体験するための道具です。公衆電話ボックス型で、中に入って電話をかけ、『もしも〇〇だったら』と申し出て、しばらく待つと設定が完了して電話機のベルが鳴り、外に出てみると、外の世界は自分が望んだ通りの世界に変化しているというものです。

実際にない世界が社会の仕組みも含めてそこに現れるという点では極限の仮想現実と言えます。

〇 電脳空間(ニューロマンサー)

「ニューロマンサー」はアメリカの作家ウィリアム・ギブスンが1984年に発表した作品です。小説には様々な人物(?)が登場します。「マトリックス」と呼ばれる電脳空間にジャックイン(意識ごと没入すること)し情報を盗み出すコンピューター・カウボーイ、眼窩にミラーシェードのディスプレイを埋め込んだ女サムライ、生前の情報がROMとして残されている擬似人格、背景に合わせて模様が変化する擬態ポリカーボンを着込んだティーンエージャーなどです。さらに皮膚電極を額に付けて電脳空間にジャックインするためのデッキと呼ばれる端末や他人の五感を共有する疑験(シムスティム)、そして「マトリックス」と呼ばれる電脳空間が登場します。これらは近未来を描いていますが、実際にはこうした技術はまだ開発されていません。しかし、脳とコンピュータのつながりという視点から白書では、「ブレイン・マシン・インターフェース」、いわゆる脳情報を使って機械やコンピューターを制御するという技術についてふれています。

4 人工知能、自動制御、ロボット

〇 ロボットのイメージ(鉄腕アトム)

「鉄腕アトム」は、1963年に国産初の連続テレビアニメシリーズとして放送が開始され、最高視聴率は40%を超えたと言います。テレビを見ていた当時の子供にロボットのイメージを与え、現在のロボット研究者の研究へのきっかけをつくったと言ってもいいほどの影響を与えたアニメです。

手塚治虫の描いた鉄腕アトムは、人間とロボットが共存する世界で人間と同じように感じることができる「心」を持ったロボットです。それ故人間とロボットの間の板挟みになって悩むアトムが描かれています。

白書では、現実にはアトムのような感情を持ち、相手の気持ちを理解する「心」を持ったロボットの実現に欠かせない人工知能の研究は加速してはいるもののハードルは高いとしながらも、一方、ロボットの人間社会への進出は確実に進んでおり、ロボットと人間の関係はアトムとは違う形で深まっていると述べています。

 

(執筆中)

 

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