ネット中立性(net neutrality)

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アメリカの「ネット中立性」論議

日本では「ネット中立性」ということが話題になることはあまりありませんが、今、アメリカでは、「ネット中立性」に関する規制が撤廃されるということで、賛成派、反対派に分かれて大きな議論を呼んでいるようです。

「ネット中立性」に関する規制とは、オバマ政権時にFCC(米連邦通信委員会)が、インターネットのプロバイダー(ISP)が、コンテンツをブロックしたり、速度を遅くしたり、コンテンツを高速に配信するために割り増し料金を払う会社に「高速車線(fast lane)」を提供することを禁じたもので、「Open Internet Order(オープン・インターネット規則)」と言われているものです。

FCCは2005年に「ネット中立性の原則」を示し、その後、コムキャストやベライゾンなどと法定闘争を繰り返しながら、ネット中立政策を進めてきました。今回はFCC自らがこの規制を撤廃しようというわけです。2017年12月14日に開かれるFCCの委員会で、委員5人による投票で賛否を決めるとのことです。

「ネット中立性」の撤廃が決まると、ネット接続サービスを手がける通信・CATV会社がコンテンツの内容に応じ、速度や価格を決められるようになる可能性があり、サービスを提供するネット企業は反対しています。インターネット協会のCEOマイケル・ベッカーマンは、「パイ委員長の提案は、ネット中立性の終焉を意味し、オープンインターネットを支持する何百万人ものアメリカ人の意向に反するものである。・・・消費者はISPで選択肢がほとんどなくなり、・・・・・ネット接続会社はその立場を利用してウェブサイトやアプリを差別することを許してはいけない。・・・インターネット協会と私たちの仲間は、ネット中立性の保護がこの国の法則であることを確実にするために、今後も努力する」という内容の声明を出しています。

ネット中立性とは?

そもそも「ネット中立性」とは何なのでしょうか?

「ネット中立性」という用語

「ネット中立性(net neutrality)」あるいは「ネットワーク中立性(network neutrality)」は、2000年前後に米国で生まれた概念です。その元をたどると1860年のアメリカ連邦法にまでさかのぼることができるそうです。言葉としてはっきり示されているものでは、2003年にコロンビア大学のティム・ウー(Tim Wu)教授が著した「Network Neutrality, Broadband Discrimination(ネットワークの中立性とブロードバンドの差別性)」という論文が有名です。ネットなどでは、「ネットワーク中立性」という用語が初めて使われたのはこの論文とするものも見られます。論文のタイトルとしてはティム・ウー(Tim Wu)教授が初めてのようですが、その前年の2002年11月にCBUI(Coalition of Broadband Users and Innovators)というアメリカの米国企業団体のFCCへの意見書(https://ecfsapi.fcc.gov/file/6513401673.pdf参照)の文中で、「ネットワーク中立性」という言葉が使われています。ただ、いずれも「ネットワーク中立性」についての定義は示されていないようです。

「ネット中立性」は議論や意見・原則

ティム・ウー(Tim Wu)教授の考える「ネットワーク中立性」とは、電気製品の種類やメーカーに関係なくコンセントにつないで電気を自由に使えることで、大きな家電市場を支えられている配電網のようなものであるという説明があります。ティム・ウー(Tim Wu)教授自身、「ネット中立性」あるいは「ネットワーク中立性」を定義していないように、誰にとっての中立性か、何を尺度として中立的とするかというのは、場面や立場などによって意味が違ってくるので、定義することは難しいとする意見が多いようです。また、その捉え方は国によっても一様ではないとのことです。
だらでしょうか、例えば、KDDI「用語集」では、定義ではなく「議論や意見、原則」のこととしています。

ネットワーク中立性とは、通信ネットワークを担う立場の者が特定の通信を差別あるいは優遇するべきではない、という議論や意見、原則のこと。多くの場合は・・・
(KDDI用語集 http://www.kddi.com/yogo/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88/%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%AF%E4%B8%AD%E7%AB%8B%E6%80%A7.html より)

一般財団法人「日本ネットワークインフォメーションセンター」の2016年7月発行「ニュースレター№63」では、次のように述べています。

・・・通常は「インターネット上を流通するさまざまなトラフィックの『公平な』取り扱いの保証」という意味で理解されています。・・・・
https://www.nic.ad.jp/ja/newsletter/No63/0800.html より)

少々古いのですが、総務省の「ネットワークの中立性に関する懇談会」報告書(07年9月)では、次の3つの原則を挙げ、当該要件に合致したネットワークが維持・運営されている場合、ネットワークの中立性(network neutrality)が確保されているものと考えるとしています。

① 消費者がネットワーク(IP 網)を柔軟に利用して、コンテンツ・アプリケーションレイヤーに自由にアクセス可能であること【原則1】
② 消費者が技術基準に合致した端末をネットワーク(IP 網)に自由に接続し、端末間の通信を柔軟に行なうことが可能であること【原則2】
③ 消費者が通信レイヤー及びプラットフォームレイヤーを適正な対価で公平に利用可能であること【原則3】
(ネットワークの中立性に関する懇談会報告書 ネットワークの中立性に関する懇談会 より)

他にも「インターネットの公平な利用の担保に向けた、主にネットワーク事業者に対する規制の在り方の議論」「インターネットを誰に対しても公平に利用できることを保証しようという原則」「ブロードバンド・ネットワーク提供者が、全てのインターネット・トラフィックを平等に取り扱うこと」「利用者、コンテンツ、アプリケーションなどによりトラフィックや課金のを別せず同等に扱うべきとする考え」などの説明もあります。

「ネット中立性」の論点

「ネット中立性」については、情報通信の専門家や技術者、あるいは企業や一般ユーザはもちろんのこと、法律や経済の専門家、政治家、倫理・思想・哲学などの専門家など、幅広く参加していろいろな分野で議論されているようです。

第15回日本インターネットガバナンス会議(IGCJ)(2016年9月27日)の資料「ネット中立性 (net neutrality)- 米国の議論とルール化の様子 -(寺田真一郎UC Berkeley)」では、次のような論点が例示されています。

エンド・ツー・エンド原則(end-to-end principle)
vertical business integration
言論の自由(Freedom of speech)
イノベーション(Innovation)
(ネット中立性 (net neutrality)- 米国の議論とルール化の様子 -:寺田真一郎UC Berkeley)http://igcj.jp/meetings/2016/0927/igcj15-2-1-terada.pdf より)

エンドツーエンド原理(End-to-End Principle)とは、ネットワークは単なるパイプに過ぎず、一切の処理はネットワークに接続した端末がすべきであるというものです。vertical business integrationとは、ビ ジネスモデルに関する垂直統合型ビジネスの是非です。言論の自由(Freedom of speech)は、合衆国憲法修正第1条「言論の自由」と「ネットワーク中立性」を関連付けた議論です。イノベーション(Innovation)は、ISPを規制することがイノベーションにとって重要とする考えとインターネット全体のイノベーションを阻害するという考えの議論です。

インターネット白書2017では、「ネット中立性」に関する議論を「理想・理念の観点」「制度政策の観点」「事業・競争の観点」「技術・実装の観点」で論点整理しています。

「理想・理念の観点」とは、表現の自由や自由競争に関する議論です。「制度政策の観点」とは、理念・理想を実現するためのデータの自由な流通や革新的サービス出現のためにデータに優劣を付けないことなどです。「事業・競争の観点」とは、垂直統合モデルと水平分散モデルの議論です。「技術・実装の観点」は、増大するトラフィック需要とそれに伴うデータの廃棄や制限と全てを公平に扱う原則との兼ね合いです。(インターネット白書2017「ネットワーク中立性とゼロレーティング」参照)

Zero−ratingとネット中立性

「ネット中立性」への関心があまり高いとは言えない日本ですが、2016年にLINEの新サービスについて毎日新聞が、「ネット中立性」とのかかわりを取り上げていました。特定のアプリやコンテンツの通信料を無料にする「Zero−rating(ゼロ・レーティング)」について、「インターネットの中立性」に反しないかというわけです。

新聞では、米連邦通信委員会(FCC)が2005年に発表したインターネット政策綱領である①インターネット上のコンテントへのアクセス、②インターネットでのアプリケーションの利用、③インターネットへの機器の接続、④複数業者によるインターネット接続の競争的提供環境という4原則の一部を示しながら、ゼロ・レーティングは、FCCの類型にそのまま当てはまるわけではないが、「特定のアプリなどを優遇していることは間違いがなく、ネットの中立性の原則の趣旨に照らして「グレー」な面を含んでいる」と言うような内容でした。そして、インドでフェイスブックのサービスやグーグル検索などに通信料なしで接続できる「Free Basics(フリー・ベーシックス)」というサービスが中止になったことことなどを紹介していました。

 

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