IoTは雇用を奪うのか?

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コンピュータが人から仕事を奪うということがかつて話題となったことがあります。実際には新たな仕事が生み出され、コンピュータの普及が雇用を脅かすという事態は起きませんでした。しかし、最近になってIT(情報技術)や人工知能の発達が、今後の雇用状況を大きく変える可能性について、再び話題となってきたように感じます。

機械との競争

employment_004_RIoTは人から雇用を奪うのことになるのではないかという議論も出てきていますが、IoTという言葉がまだ世間で認知されていなかった2011年に、経済学者のブリニョルフソンとマカフィーが『Race Against The Machine(機械との競争)』という著書を出版しました。その中で、「ICTの発達は、きわめて高いスキルをもつトップ1%のスーパースターと資本家に大きな利益を与える一方で、中間層の人びとから仕事を奪い、失業を増加させ、収入を減らしている」と主張しました。著書の中では、

 

「技術革新の結果、高いスキルを持つ労働者に対する相対的な需要が高まる一方で、スキルの低い労働者に対する需要は減少し、場合によっては途絶えている。」

「多くの産業は勝者総取りかそれに近い状態になっており、少数の人が圧倒的な報酬を手にしている。」

と述べています。そして今後の展望について、

「最もスキルの高い労働者が高い報酬を得る一方で、意外なことに、最もスキルの低い労働者は、中間的なスキルの労働者ほど需要減に悩まされていない。この動向には、労働需要の二極化現象が反映されている。」

「デジタル技術は進化し続けているので、これらのスキルが今後数十年にわたって人間の独壇場であり続けるかどうか、私たちはいささか懐疑的だ。・・・今後10年のうちには自動運転のトラックが登場するだろう。・・・スーパーコンピュータが医師に代わって医療診断を行うことも可能になるかもしれない。」

と述べています。

employment_006_Rこれより本の出版された前の2010年に、日本では国立情報学研究所の新井紀子氏が「コンピュータが仕事を奪う」という本を出して社会に警鐘を鳴らしています。これらの本は出版された当時はあまり注目されなかったようです。しかし、IoTの話題と共に改めて注目されるようになってきたようで、2014年の財務省職員セミナーで氏は次のように講演しています。

 

 

「今後、例えば調査、分析といった仕事は、部分的には機械に取って替わられるでしょう。設計や組み立ても、機械による最適化や3Dプリンターに部分的に取って替わられます」

「営業や販売の仕事は機械による情報推薦やパーソナライゼーションということに代替されてくるだろうと思っています。」

「知的コンピュータによって、人間が提供していた一部分の能力がある日突然、取って替わられるということが起こります。・・・今働いていらっしゃる方は、上に行くか下に行くかしかありません。上に行く能力があれば良いのですが、労働移動コストがゼロで労働力の移動ができるのかといった点が大きなポイントになってくると思います」

(産業社会・労働市場の未来の姿と 求められる人材像平成26年7月23日内閣府より)

10年後に消える職業

employment_002_R英国オックスフォード大学のAI(人工知能)の研究者マイケル・A・オズボーン博士の論文「THE FUTURE OF EMPLOYMENT: HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION?」(雇用の未来)にはコンピュータライゼイションによって将来雇用がどんな影響を受けるのかとして、米国労働省が定めた702の職業をクリエイティビティ、社会性といった項目で分析し、10年後の消滅率を割り出しています。表では最も消滅率の高いものは次のようになっています。

 

693位 新規顧客アカウント作成スタッフ

694位 写真処理労働者及び加工機オペレーター

695位 税務申告者

696位 貨物の荷積みスタッフ及び代理店

697位 時計の修理工

698位 保険引受け業務

699位 数理技術者

700位 裁縫師

701位 タイトル審査・調査

702位 電話営業

その他にも、銀行の融資担当者、スポーツの審判、不動産ブローカー、レジ係、ホテルの受付係なども、確率90%以上でなくなり、702の職業のうち47%が、10〜20年後には機械によって代わられると発表しています。

ワーク・シフト

employment_005_R2025年の働き方を予測したロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン氏はその著書『ワーク・シフト』で、5つの変化(①テクノロジーの進化、②グローバル化の進展、③人口構成の変化と長寿化、④社会の変化<意識や価値観の変化>、⑤エネルギー・環境問題の深刻化)が将来の働き方を変えるとしています。そして、「漫然と迎える未来」には孤独で貧困な人生が待ち受け、「主体的に築く未来」には自由で創造的な人生があると指摘し、「主体的に築く未来」に向かうためには(1)知的資本(知識と知的思考力)、(2)人間関係資本(人的ネットワーク)、(3)情緒的資本の3つの資本が必要であり、これらを強化する3つのシフトが求められるとしています。

第1のシフト

広く浅い知識しかもたないゼネラリストから、社会の変化に合わせて移動と脱皮のできる複数の専門技能を身につけたスペシャリストへ。

第2のシフト

難題を解決し合う少人数の同志、創造的ヒントを与え合うスペシャリストの大集団、ストレスをやわらげるプライベートの友人という3種類の人的ネットワークを持ち、孤独な競争から協力して起こすイノベーションへ。

第3のシフト

お金と消費に最大の価値を置く発想から、家庭や趣味、社会貢献など多様な選択肢の中で「情熱を傾けられる経験」に価値を置く発想へ。

企業の短命化

employment_003_Rピーター・ドラッカー氏はその著書「成功者の告白」で、

「・・・会社や事業の寿命が個人の労働可能寿命よりも短くなることは、歴史上はじめてのことである。これまではひとつの仕事、たとえば印刷工になれば、一生そのスキルひとつで食っていけた。しかし今では、スキルを身につけても、まだ働けるのに会社のほうが先に寿命がきてしまう。それは一生の間に、いくつもの異なる分野で異なる能力を発揮しなければならないという、まったく新しい時代に生まれたことを意味する。」

と述べています。また、米国の未来学者トーマス・フレイ氏は、「2030年までに技術革新によって、今ある仕事の50%が消滅する」と言っています。技術の進歩はめざましく、会社の盛衰の間隔が短くなってきているようです。

中間層の没落

デービッド・オーター・MIT教授、フランク・レビー・MIT教授、リチャード・マーネン・ハーバード大学教授らは、業務の内容を定型的(Routine)か非定型的(Non-routine)か、知的業務か身体的業務かなどの観点から、非定型分析業務(Non-routine Analytic tasks)、非定型相互業務(Non-routine Interactive tasks)、定型認識業務(Routine Cognitive tasks)、定型手仕事業務(Routine Manual tasks)、非定型手仕事業務 (Non-routine Manual tasks)の5つに分類(※1)し、アメリカの労働市場の分析を行いました。そして、1980年代から高賃金層と低賃金層の雇用が増大し、中間層の比率が低下する二極化の傾向にあり、その大きな要因はコンピューターの発達であるとしています。

製造業において定型化された仕事に従事していた中間所得層がコンピューターにとって代わられ、コンピューターが代替しにくい低所得のサービス業にシフトせざるを得なくなっている構造を指摘しています。コンピューター技術が定型業務を代替してその労働需要を減少させる一方、高度なスキルを必要とする非定型業務(分析業務および相互業務)を補完してその労働需要を増加させたというわけです。

(※1)

非定型分析業務

研究、分析など高度な専門知識を持ち、抽象的思考の下に課題を解決する業務です。

非定型相互業務

交渉、管理、コンサルティングなど、高度な内容の対人コミュニケーションを通じて価値を創造・提供する業務

定型認識業務

事務、計算など、あらかじめ定められた基準の正確な達成が求められるデスクワークです。

定型手仕事業務

身体的作業(手作業あるいは機械を操縦しての規則的・反復的な生産作業)により、あらかじめ定められた基準の達成を行う業務

非定型手仕事業務

家事サービス、修理などそれほど高度な専門知識を要しないが、定型的ではなく状況に応じて個別に柔軟な対応が求められる身体的作業

各種調査の予測する未来の雇用

ガートナーは、 2020年までに知的労働者の3人に一人が彼ら自身によって訓練されたスマートマシーンに職を奪われると予測しています。工場労働者だけでなく、高度な知識が要求される医師や弁護士などの雇用や、金融分野ではトレーダー、さらにはデータサイエンティストでさえもその雇用に大きな変化が生じる可能性があるとしています。

また、ダビンチインスティテユートは、2030年には世界の全雇用の50%の20億人分の仕事がマイクログリッド、自動運転、3Dプリンター、ロボットの4つのテクノロジーの進化によりなくなると予測しています。

米シンクタンク、ピュー研究所が2000人近い識者に、2025年までにAIやロボットが人間の仕事を奪い尽くす事態が起きるかどうか? を尋ねた行った「AI, Robotics, and the Future of Jobs」では、「雇用が奪い尽くされることはない」という意見と「大部分の雇用は失われかねない」と危惧する意見がそれぞれ52%、48%と、ほぼ意見が真っ二つに分かれました。しかし、雇用が奪われないとする意見の中にも、2025年という条件の下では雇用に大きなインパクトを与えることはないとしても、さらに先の将来には多くの雇用が失われる危険を感じているという回答がありました。また、これまで起こった技術革新はゆっくりとしたものであったため、人は再教育を受けることで違う仕事へ転職することが可能だったが、ロボットとAIの進化の速度は、技術職に就く人さえもあっという間に時代遅れにするほど速いものであり、対応はこれまでにないほど難しいとする意見もありました。(AI, Robotics, and the Future of Jobs http://www.pewinternet.org/2014/08/06/future-of-jobs/ より)

方向づけられた技術変化

MITのダロン・アセモグル氏は「方向づけられた技術変化」という理論を提唱しています。一般には技術進歩は経済や社会の状況と関係なく、偶然の発明などで決まると想定していますが、ダロン・アセモグル氏は、「技術はその社会で豊富な生産資源を重点的に使い、希少な資源を節約する方向に変化が進む」と唱えています。企業が利益を上げようとする中においては、貴重で割高な資源や生産手段を使うより、なるべく手に入りやすく安価な資源や生産手段を利用した方が有利だからだというわけです。この理論では労働者の所得格差が拡大したり縮小したりの格差循環が生じます。例えば、科学の進歩に対応できる高スキル労働者と、変化から取り残された低スキル労働者で所得の格差が生じます。しかし、企業が利益をあげるため安い労働力を使おうと低スキルの労働者でも使えるような技術の方向に進歩が変化していき、低スキル労働者の需要が増えて、結果、格差が縮むというわけです。格差は拡大するだけでなくある時点で縮小の方向に向かう「自己復元力」が市場にあるとするもので、この考えからは、一時的に雇用が奪われたとしても、また新たな雇用が創出されることになります。

 

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