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中小企業におけるIoTビジネスの現状と課題
平成27年2月に「平成26年度 IoT/IoEのビジネス環境とその発想を促す試行的ワークショップによる産業育成方策に関する調査」という報告が経済産業省近畿経済産業局からだされました。
「平成26年度 IoT/IoEのビジネス環境とその発想を促す試行的ワークショップによる産業育成方策に関する調査」より
報告書は、ものづくり中小企業において、中小企業では高いポテンシャルがあるにも関わらず、現状ではIoT/IoEでのヒット商品(ビジネス)が生まれていないとし、その阻害要因を次のようにまとめています。特に「アイディアの欠如」「異業種との連携(出会い)」を挙げています。
「平成26年度 IoT/IoEのビジネス環境とその発想を促す試行的ワークショップによる産業育成方策に関する調査」より
その上で、IoT/IoE分野での新たなビジネスを継続的に生み出すために今後考えられる施策として、以下の3つのポイントが重要であるとしています。
(1) 情報サービス組込み商品の発想トレーニング
ものづくり企業においても、IT×ものづくりを新しいビジネス(サービス)へと結びつけるための発想・アイデアを磨く鍛錬が必要。
(2) ものづくりに対する固定観念の払拭
中小ものづくり企業においては、これまでの大企業が求めるものを作るだけの受注業務から、自社製品化・グローバル展開を視野に入れた新しいものづくりへの転換が必要。
(3) これまで出会ったことのない業種・業態とのマッチング
中小ものづくり企業においても、新たな商品を生み出すために、事業プロデューサーやデザイナーとの出会い、異分野のサービスやコンテンツの活用等が必要。
「平成26年度 IoT/IoEのビジネス環境とその発想を促す試行的ワークショップによる産業育成方策に関する調査」より
こうした提言をまとめるにあたっては、企業や大学、研究機関などの聞き取り調査を行っています。その回答結果には、IOTビジネスを成功させるヒントがあるように思います。以下に報告書に述べられている内容の要点を示します。
IoT/IoE新ビジネス創出に関する調査
(1)既に先進的な情報サービス組込み商品を製造・販売しビジネスに乗り出している企業の調査から
新事業・新ビジネスの発想はどこから得られるか?
① 技術環境の変化
(回答の具体)
・スマートフォンなどの普及により、ネットに接続されることを前提とする商品の開発に取り組みやすくなった。
・3Dプリンタのように、小規模な企業においても新たな試作品を省リスクで簡単に作れるようになった。
・Bluetooth Low Energyが登場し、スマートフォン以外の機器・部品にも搭載されるようになったことから、一気にアイデアが膨らんだ。
② ニーズの聞き取りによる製品企画
(回答の具体)
・いろいろな店舗に赴き実際に店員等のニーズを聞き取ることで、新たなサービスつきの商品を開発することができた。
・広告代理店等ビジネスを企画する立場からの意見も参考にしている。
③ 新たな価値観やサービスを導入したビジネス発想
(回答の具体)
・製品の機能向上による新しい価値だけでなく、その製品を用いてユーザエクスペリエンスをどれだけ高められるかが鍵となる。
・継続的に得られるユーザの使用状況等に関する様々なデータを収集・分析することで、従来とは違ったサービスを開発。
・情報サービス組込み商品はそれ単体としては低機能であるが、インフラとして普及することにより、ビッグデータの分析を中心とする新たなサービスが後から付加できる。
新たな事業を進める上での課題や障害となることとは?
① アイデア出しから製品化までの継続的な取り組み
(回答の具体)
・アイデア出しは誰でもできるが、それを製品化に向けて継続して努力していくことが難しい。
・「ここにニーズがありそうだ」と考えられる領域でないと取り組むことはできないし、開発者自身が興味を持っている分野ということも重要。
・ユーザのニーズは、対象とする地域や市場によっても状況が異なる。
② 依然として中小企業にとっては資金調達が課題
(回答の具体)
・中小企業にとっては、資金調達の面では依然としてリスクは存在する。
・資金を集めるためには、ビジネスモデルを明確に打ち出し、資金の回収まで資金提供者にアピールできないと実現は難しい。この点でクラウドファンディングの利活用も有効である。
(2)IoT/IoE を応用した製品開発に取り組んだことのない中小ものづくり企業の調査から
ITを活用した新事業・新製品に対する関心(周りの環境の変化を感じるか?)
① IT 利活用ビジネスに対するアイデアは不足
(回答の具体)
・異業種ものづくりグループに参画している中で、メンバー企業との雑談の中でアイデアが想起された。
・伝統工芸品であることからまったく新たな製品をスピーディに開発することは難しい。
・材料・素材等に制約があることから、アイデアは欲しいと思いながらもなかなか取り組めていない。
新たな領域に飛び込むことの不安よりも、自社の力不足を痛感
① 新たな活動に対し積極的な中小企業
(回答の具体)
・IoT/IoE 関連ビジネスを推し進めたいという意見はものづくり企業に十分存在する。
② 異業種連携による新事業アイデア創出
(回答の具体)
・ものづくり以後のサービスまで見据えた製品開発は現実的には難しい。
・複数の異業種企業による連携が重要である。
・異業種連携を構築する上で、昨今多くの地域で開催されているアイデアソンやハッカソン等のイベントに参加することも、きっかけとして有意義である。
(3)組込みシステム関連企業の調査から
IoT/IoE ビジネスを支える技術的アドバンテージ
① 得意分野を生かした市場開拓
今後のビジネスの姿勢(顧客側のイノベーションをいかに裏方として実現するか)
① 徹底した業界・顧客ニーズ分析
(回答の具体)
・単に技術的に優れた製品を発想し研究・開発、そして販売しているだけではない。
・顧客とのコミュニケーションを重視し、ニーズを引き出した上でどういったソリューションが適切であるかを検討する。
・事業領域を絞った形でソリューション提供を進める。
・顧客となる事業領域のことを徹底的に研究し、必要な情報システムはどういったものか、部品や機器はどのような機能を持っていなければならないかを考える。
・自分たちが「サービス」として提供できる領域(分野)を特定した形でビジネス展開を志向する。
・単なる請負型ではなく、自らの商品・サービスへの展開を方法論として位置づけた上で、積極的に顧客に対し提案していく。
(4)新規ビジネス創出をサポートする事業プロデューサーの調査から
新たな発想のポイント
① 中小企業が狙うべき市場
(回答の具体)
・狙うべき市場の種類は、大企業にとって規模が合わず参入が難しい領域が中小企業にとってターゲットとなり得る。
・グローバルなビジネスに繋げていくためには「様々な企業がプラットフォームとして利用できるような規格や技術仕様に基づいた製品及びサービスが次々と生み出される環境が鍵となる。
・ものづくり企業であってもそれを用いたサービスまで想定し、B to Bのビジネスであってもその先の「to C」まで見据えた設計が重要である。
ワークショップ等異業種等企業間連携の重要性、またそれを実現するコツ
① 議論を活性化させ、ビジネスに近づけるための工夫が必要
(回答の具体)
・中小企業においては提供できる機能や技術、製品のレベルは極めて限られており、異業種等企業連携の取り組みが必須である。
・事業プロデューサーは、「実際に事業を実施するとしたら」というビジネスモデルを描いておき、それに合いそうな企業をイベントに参加させるための工夫が重要である。
・アイデアソン・ハッカソン等イベントにおいてはそれぞれが積極的に意見を出し合える環境を作ることが重要である。ユーザ側のニーズプレゼンテーションに対しベンダ側が提案プレゼンテーションを行うような仕掛けなど、工夫の余地がある。
「平成26年度 IoT/IoEのビジネス環境とその発想を促す試行的ワークショップによる産業育成方策に関する調査」より
(経済産業省近畿経済産業局http://www.kansai.meti.go.jp/2-7it/report/26fy_iotioebusiness.html)