iotと今後のビジネス市場(経済産業省:CPSによるデータ駆動型社会の到来を見据えた変革から)

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〇 現実のものとなってきたCPS

経済産業省の「産業構造審議会 商務流通情報分科会 情報経済小委員会」が、4月15日に「中間取りまとめ~CPSによるデータ駆動型社会の到来を見据えた変革~(案)」という38ページの報告書を提出しました。タイトルに使われている「CPS」や「データ駆動型社会」という言葉は、あまりなじみのない言葉かもしれません。

CPSとは「Cyber Physical System」の頭文字をとったものです。報告書から引用するなら、CPSは

「現在進行しているIoT(Internet of Things、モノのインターネット)の技術革新により、人だけでなくモノのデジタル化・ネットワーク化も急速に拡大し、データを通じて人間を介さず、直接サイバー空間に実世界の状況が写し取られ、サイバー空間での情報処理結果が実世界の動きを制御する」

システムです。つまり、デジタルデータの収集、蓄積、解析、解析結果の実世界へのフィードバックという実世界とサイバー空間との相互連関のシステムです。

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経済産業省:産業構造審議会 商務流通情報分科会 情報経済小委員会「中間取りまとめ~CPSによるデータ駆動型社会の到来を見据えた変革~(案)」より

〇 データ駆動型社会:

データ駆動よりもデータドリブン(data driven)の方が通りがいいかもしれません。もともとは計算科学の用語で「ひとつの計算によって生成されるデータがつぎの計算を起動し、つぎつぎに一連の計算が実行される」こと意味するようです。

報告書では、データ駆動型社会を

「上記CPSがIoTによるモノのデジタル化・ネットワーク化によって様々な産業社会に適用され、デジタル化されたデータが、インテリジェンスへと変換されて現実世界に適用されることによって、データが付加価値を獲得して現実世界を動かす社会」

と定義づけしています。実世界とサイバー空間との相互連関するCyber Physical Systemが、社会のあらゆる領域に実装されることによって、大きな社会的価値を生み出していくそんな社会が「データ駆動型社会」です。

報告書では、ITの社会への実装は、以下のような段階を踏んで進展し、現在はレベルⅣのCPSの実現という段階に位置しているとしています。

レベルⅠ 個別機器を独立して使用(スタンドアロン) (〜 90年代後半)
レベルⅡ 一部機器がネットワークに接続され、デジタルデータの流通が開始(ネットワーク化) (〜 00年代前半)
レベルⅢ データ集積・集計・処理といった機能が、個別の端末からネットワーク上のデータセンター等へ移行(クラウド化) (〜 00年代後半)
レベルⅣ 実世界をデジタルデータに変換し、そのデータを処理した上で、現実にフィードバックするというループの発生(CPS) (10年頃〜 )
レベルⅤ AIによる価値創造と完全自律・自働化

レベルⅤの「AIによる価値創造と完全自律・自働化」というのは、将来、人工知能の進化等により、デジタルデータの解析による判断や、解析結果の実世界へのフィードバックなどが完全に自律・自働化され、更なる社会変革を生み出していく段階のことです。

〇 CPSが産業や社会にもたらす影響

CPSのもたらす影響について、報告書では以下の4つを上げています。

(1)実世界とサイバー世界の相互作用による高付加価値化

CPSは様々な分野で、新たな付加価値を創造するだろうが、その主導権はユーザー側に移行し、付加価値の創出はユーザー・ドリブンで行われることとなるとしています。さらに、仮想化技術の進歩に伴う利用可能な情報処理資源の増大により、情報を活用した新たなサービスの可能性が質・量の両面で拡大するとも述べています。そして将来的には人間の果たす役割の代替が進むと予想しています。

(2)データの二次利用や、特定分野での技術基盤等の他分野への応用による新たな価値創造

 Googleのロボット分野やインテリジェント家電等の企業の買収を例に、二次データの利用によって、既存の産業の垣根を越えた全く新しい付加価値が創造され、広範な産業に破壊的イノベーションをもたらす可能性を指摘する一方で、情報が他者に晒されることから、自らの情報のコントロール権の喪失や、データの由来者が特定されてしまうという可能性にも言及しています。

(3)デジタル化の進展による水平分業化、開発・生産手法の変容と規模の経済性(※1)・ネットワーク外部性の発現

 サプライチェーンにおけるモジュール化、水平分業化が促進、モジュール生産やバーチャル・シミュレーションを用いて開発・評価を行うモデルベースド・システムエンジニアリング(MBSE)といった新たな手法の活用の促進の可能性を指摘しています。

また、エレクトロニクス産業において、デジタル化・モジュール化の進展や投資規模の増大により国際的な水平分業のエコシステムが揃ったことで、各レイヤーにおけるグローバル競争が活発化し、日本企業がこうした構造変化に適応できなかった事例から、データが特定の企業に集約される分野においては、データが付加価値の大きな源泉となることで、ネットワークへの参加主体の増加により優位性が高まるというネットワーク外部性が大きく働くと指摘しています。

(※1)規模の経済性とは、生産規模の拡大に伴って生産物の単位当たりのコストが下がり、効率が上昇することを意味します。

(4)セキュリティ・リスク、コンプライアンス・リスクの増大

 サイバー攻撃に対して、各社ごとの分散的対応だけでは完全な対処は難しく、またコストも膨大になります。また、適切なセキュリティ対策が担保されないとCPSの深化にも障害となります。報告書ではアメリカ政府の事例を紹介しながら、CPSが深化していく局面にあっては、諸外国の動きも踏まえた取組を講じなければ、我が国産業のサイバー攻撃への対処能力の低さが信頼性低下につながる懸念があるとしています。

〇 CPSによるデータ駆動型社会の実現に向けた課題

CPSが進展する分野においては、規模の経済性やネットワーク外部性が大きく働き、先にグランドデザインを描いてエコシステムを築き上げた者が付加価値を独占する可能性が高くなります。こうした状況に対応していくためには、我が国をCPS関連の新ビジネスが次々に生み出されるビジネスイノベーションの場となるよう世界中のヒト・モノ・カネを呼び込むことなどを通じて、日本発の新ビジネスをグローバルに展開していく好循環を生み出す必要があるとしています。そして、そのために以下の課題を解決しなければならないと指摘しています.

(1)CPSに対応していない現行制度の見直しの必要性

既存の事業規制等の制度はCPSの進展を想定していないため、新たなビジネスモデルを創出するに当たってグレーゾーンが発生することや、企業を越えたデータ流通のための法的枠組がないことが企業の動きを萎縮させているとして、CPSのビジネスへの実装に必要なソフトインフラとして、ルール策定を早急に進めていくことが重要としています。

(2)CPSに対応した産業プラクティスにおけるユーザードリブン・アプローチの重要性

我が国の企業は、未だにITやデータは業務効率化の手段ととらえ、競争力を最大化する攻めのビジネスモデルへの転換が遅れるなど、「ものづくりで勝って商売で負ける」という状況にあること、さらに、米国に比べ、ゲームチェンジをもたらすようなベンチャーが育っていないことも指摘し、これからのビジネスにおいては、付加価値の創出におけるユーザーの役割が大きくなる中、「売り切り型のビジネス」から「ユーザーを囲い込むプラットフォーム型のビジネス」へと脱却していくことが必要であるとしています。そして、供給側がユーザーニーズに応じた迅速かつ柔軟な価値創造を実現するユーザードリブン・アプローチが重要であると述べています。

さらに、経営層の強いリーダーシップの下で経営戦略としてIT・データの利活用を行うような「攻めのIT経営」へ転換と、新たなビジネスモデルを開拓するベンチャー企業の創出についても述べています。

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経済産業省:産業構造審議会 商務流通情報分科会 情報経済小委員会「中間取りまとめ~CPSによるデータ駆動型社会の到来を見据えた変革~(案)」より

(備考)コモディティ化:競合する商品同士の機能や品質面で大差のない製品が多く流通し、消費者の商品選択の基準としての「価格」の存在が大きくなり、メーカー側は商品価格を下げざるを得なくなり、同様の商品同士での価格競争が起こりメーカーの薄利提供が続くことになること。

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経済産業省:産業構造審議会 商務流通情報分科会 情報経済小委員会「中間取りまとめ~CPSによるデータ駆動型社会の到来を見据えた変革~(案)」より

(3)CPSに対応した社会基盤の強化の必要性
① 情報セキュリティの強化

高度化するサイバー攻撃への対処に向けては、各社ごとの分散的対応では不十分であり、政府がイニシアティブを取って官民や業種の垣根を越えた情報共有の仕組や対策指針を定め、対策実施に対するインセンティブ付与等を進めていく必要があるとしています。

② コアテクノロジーの研究開発の強化

CPSを支えるコアテクノロジーの研究開発を国が強力に進めていくことが必要であるとして、Googleがディープラーニング開発関連会社を買収したり人工知能研究の世界的権威の招へいしたりしていること、IBMが人工知能「Watson」を活用したソリューションビジネスを強化するため約10億ドルを投資したことなどを取り上げ、我が国の中長期的な研究開発の割合がわずか1割程度であるとして中長期的な投資の不備を指摘しています。そして、データの収集から実社会へのフィードバックまでの各要素技術について、バランス良く技術革新が実現される必要があり、コアテクノロジーの研究開発強化と社会実装促進のための取組の両者が不可欠であるとしています。

③ 人材の強化

「ITと経営の両面に通じ、リーダーシップを発揮して攻めのデータ経営を推進していく人材」「ITベンチャーを起業する人材」を育てる必要があるとしています。また、中長期的には多くの職種において業務がデジタルデータの活用や人工知能により置換されていく可能性が見込まれる中、プログラマー・理系専門人材のような従来のIT人材の概念に含まれない人材(ITベンチャー起業家、ホワイトハッカー、データ・サイエンティストなど)を中長期的に育成することも必要と述べています。

④ 産業システムデザインの必要性

米国やドイツの取り組みを紹介しながら、CPSの実現にはエンジニアリングの知見を踏まえた産業システムデザインが重要であると述べています。

〇 CPSによるデータ駆動型社会の実現に向けた施策の方向性

報告書では、日本には次のような強みがあるとして、その強みを戦略的に活用していくことが重要であるとしています。

我が国の強み

① 集積・集計・処理したデータを現実にフィードバックする制御系の技術において、競争力を有するプレイヤーが多い。

② 我が国の品質管理は、システムのきめ細やかな「つくり込み」に強みを有している。

③ 技術の設計に携わるエンジニアの層が厚い。

④ 我が国の光ファイバー回線などのネットワーク環境は、FTTH比率やインターネット接続速度等で世界的に優位にある。

⑤ 2024年度までに家庭スマートメータが国内全5000万世帯に設置されることが予定されているなど、ネットワーク面でのインフラは相対的にも整備されている。

こうした強みを示した上で、具体的には以下の施策の方向性を示しています。

(1)CPSに対応できていない制度を変える

①CPSに対応していない制度・規制を見直す

②デジタルエコノミーに対応した国際的枠組を整備する

(2)迅速なチャレンジを促し、CPSに対応した産業活動を駆動する

①具体的な産業モデルを創出し、各分野でソフトなルールを先行して積み上げる

②企業間連携によるCPSビジネス創出を促進する

③大企業・やスタートアップ企業がCPSにチャレンジする環境を抜本的に強化する

(3)CPSに向けた官民共通基盤を国家戦略的に整備する

①国がイニシアチブを取った企業等のサイバーセキュリティ対策強化

②技術開発を強化する

~具体的な技術開発課題~

<人工知能(AI)>

・ 脳型人工知能

・ データ駆動・知識推論融合型人工知能

・ 非ノイマン型コンピューティング(量子アニーリング、 脳型コンピュータ 等) 等

<情報処理>

・ エッジコンピューティング(分散処理、データセントリックコンピューティング)

・ リアルタイム制御技術

・ 画像認識・処理技術

・ 高度セキュリティ技術(情報セキュリティ、次世代暗号技術、制御セキュリティ) 等

<デバイス>

・ 無給電/低消費電力/高性能センサシステム

・ 次世代パワー半導体(新材料)

・ 新材料/新構造による低消費電力/高性能半導体

(大容量高速メモリデバイス・ストレージシステム、光エレクトロニクスデバイス 等)

・ 低コスト/多品種少量/歩留まり向上のための生産・設計技術 等

③IT人材育成をCPS関連に重点化する

④IT産業の生産性・競争力を強化する

⑤産業システムデザインを担う拠点を整備する

 

(執筆中)

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