IoTと「限界費用ゼロ社会」

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限界費用ゼロ社会

資本主義をテーマとした本が目立つようになってきました。富の集中、格差の拡大などが背景にあるものと思います。トマ・ピケティの『21世紀の資本』はあまりにも有名ですが、他にも資本主義は今、みずからを傷つけていると警鐘をならすフィリップ・コトラの「資本主義に希望はある」や、市場経済には「第3の柱」が必要であるとするヘンリー・ミンツバーグの「私たちはどこまで資本主義に従うのか」 など、他にも多くの本が書店には並べられています。

そんな中で、日経新聞や朝日新聞等の書評でも取り上げられ、最近注目されている本にジェレミー・リフキンの著書「限界費用ゼロ社会―モノのインターネットと共有型経済の台頭―(The Zero Marginal Cost Society: The Internet of Things, the Collaborative Commons, and the Eclipse of Capitalism)」があります。日本語版は536ページあり、5部編成の16章からなります。日本版では、日本向けに特別章が加えられています。

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著者のジェレミー・リフキンはアメリカの文明評論家で、欧州委員会、メルケル独首相をはじめ、世界各国の首脳・政府高官のアドバイザーを務めるほか、EUの第3次産業革命における長期的な経済的持続可能性に関する計画の中心的立案者でもあります。本書は、そんな著者が「共有型経済(シェアリングエコノミー)」という新しい経済社会の到来を予言する論考です。

「限界費用ゼロ社会」の概要

本書で同氏は、資本主義経済は本質的に矛盾を抱えており、今、経済パラダイムの大転換が進行しつつあるとして「資本主義は今、跡継ぎを生み出しつつある」と述べています。そして、その原動力になっているのがサブタイトルにあるようにIoTだというわけです。IoTが私たちの暮らしを変え、産業構造も変えていくであろうことは誰もが予想できるところですが、氏はそれだけにとどまらず、資本主義そのものをパラダイムシフトすると論を展開しています。

IoTをはじめとするテクノロジーの進化は、効率性や生産性を極限まで高めることになり、最終的には「限界費用ゼロ社会」を出現させ、結果、企業は利益を消失させ資本主義が衰退するというのです。

限界費用(Marginal cost)とは、Wikipediaでは「生産量を小さく一単位だけ増加させたとき、総費用がどれだけ増加するかを考えたときの、その増加分を指す」とあります。数学的には「費用関数を生産量で微分したもの」となるようですが、もう少し平たく言えば「モノやサービスを1つ追加で生みだすコスト」と言えます。「限界費用ゼロ社会」というのは、このコストが限りなくゼロの社会ということです。それは、モノやサービスがタダということであり、企業は利益を消失させてしまうというわけです。

しかし、氏は資本主義が衰退したあとに、その跡継ぎが誕生するとしています。それは、共有型経済(シェアリング・エコノミー)で、そうした社会が2050年ごろに台頭するとしています。共有型経済とは、人々が協働でモノやサービスを生産し、共有し、管理する社会です。そしてこの共有型経済は、「協働型コモンズ」という空間で展開されるとしています。コモンズ(commons)とは、近代以前のイギリスで牧草の管理を自治的に行ってきた制度として知られていますが、日本でも「入会(いりあい)」という同じような制度があります。つまり、このような国や企業のような既存の組織ではない同じ価値観を共有した市民協同組合的な組織が、モノやサービス、情報、エネルギーをシェアしていくというわけです。その兆候として「第Ⅱ部 限界費用がほぼゼロ」の社会の中で、3Dプリンターや大規模オンライン講座MOOCなどを取り上げています。

大雑把な要約ですが、こうした社会を台頭させるのが、インターネット、再生可能エネルギー、IoT(internet of things)の3つのテクノロジーだとしています。

特別章「岐路に立つ日本(ドイツと日本の比較/日本の進むべき道)」

著者は、本書の最後に日本版向けに特別章を設けています。章では、特にエネルギー問題に触れて、脱原発を遂げ、10年後には太陽光と風力で45%の電力をまかなうというドイツに対し、日本は「原子力と化石燃料のエネルギーに執着」し、「産業は電力業界に手足を縛られ、日本企業は国際舞台での競争力を失う一方だ」と述べ、化石燃料と原子力に頼っていては限界費用がゼロに近いグリーンエネルギーで動く経済には太刀打ちできないとして、IoTインフラへの舵を切ったドイツと比べ、日本が中途半端な状態にあることを指摘しています。そして章の終わりでは、『日本は今、歴史上の岐路に立たされており、持続不可能な20世紀のビジネスモデルから抜け出せなければ、その将来の展望は暗く、日本は急速に零落して、今後30年のうちに2流の経済に成り下がるかもしれない』と悲観的に述べています。

多少希望の光があるとすれば、『起業家の才を発揮し、エンジニアリングの専門技術を動員し、潤沢な文化的資産を生かせれば・・』、限界費用ゼロの時代において世界を導くことに貢献できるだろうと結んでいることかもしれません。

まだ、遠い先の話かもしれません。しかし、二宮尊徳の有名な言葉に「遠くをはかる者は富み、近くをはかる者は貧す」とあります。日本が「近くをはかる者は貧す」とならないことを願いたいものです。

(参考:「限界費用ゼロ社会」NHK出版)

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