国の自動走行(自動運転)への取組

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自動走行ビジネス検討会

グーグルの自動走行車が何かと話題になりますが、それに比べると日本の自動車メーカーの「自動走行(自動運転)」はやや影が薄いように感じます。
そんな中、経済産業、国土交通両省は2015年6月24日に、「自動走行ビジネス検討会」の中間とりまとめを公表し、自動車メーカー6社と部品メーカー、大学の研究機関など企業の枠を超えてオールジャパン体制で、この分野で優位にたつための自動運転技術の標準化や実証試験に着手することを発表しました。当検討委員会の設置については昨年の8月頃からニュースに出ていましたが、実際に設置されたのは2月ということで少々計画よりも遅れたように思います。しかし、2月から半年も経たないうちに、中間の取りまとめとは言え報告書を公表したことは、グーグルなどの開発や国家プロジェクトとして取り組む欧米に対する危機感の表れであり、国の焦りを感じます。

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自動走行(自動運転)については、経済産業省と国土交通省の「自動走行ビジネス検討会」の前に、科学技術イノベーション総合戦略(平成25年6⽉7⽇閣議決定)及び⽇本再興戦略(平成25年6⽉14⽇閣議決定)において、総合科学技術会議が司令塔機能を発揮し、科学技術イノベーションを実現するために創設された戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)でも取り上げられています。
SIPでは、「革新的燃焼技術」「次世代パワーエレクトロニクス」「革新的構造材料」「エネルギーキャリア」「次世代海洋資源調査技術」「自動走行システム」「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」「レジリエントな防災・減災機能の強化」「次世代農林水産業創造技術」「革新的設計生産技術」の10の課題が選定され、府省・分野を超えた横断型のプログラムとして予算を重点配分するとともにPD(プログラムディレクター)のもと、基礎研究から出口(実用化・事業化)までを見据えて推進していくものとなっています。初年度(2014年度)は全体で500億円の予算が計上され、うち自動走行(自動運転)の分野には25.35億円が配分されました。
SIPの自動走行研究開発計画では、「交通事故低減等 国家目標の達成」「自動走行システムの実現と普及」「東京オリンピック・パラリンピックを一里塚として、東京都と連携し開発」の目標・出口戦略を掲げています。そして、「自動走行システムの実現と普及」では、技術目標として

 ITS による先読み情報を活用し、2017 年までに準自動走行システム(レベル 2)、2020 年代前半に準自動走行システム(レベル3)を市場化する。さらに2020 年代後半以降に完全自動走行システム(レベル 4)の市場化を目指す。これにより、現在の自動車業界の枠を超えた新たな産業創出を図る。

 としています。

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(SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)自動走行システム研究開発計画 内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)より)

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(SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)自動走行システム研究開発計画 内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)より)

また、SIPは研究開発テーマを「競争領域」と「協調領域」に分け、SIPは官民連携での取り組みがより必要な基盤技術および協調領域(協調型システム関連)についての開発・実用化を主として推進するとしています。

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(SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)自動走行システム研究開発計画 内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)より)

 「自動走行ビジネス検討会」中間とりまとめの要約

「自動走行ビジネス検討会 中間とりまとめ」は、「現状認識」「課題の整理」「今後の取組」などからなる33ページの報告書です。

〇 現状認識

現状認識については「自動車メーカー」「サプライヤ」「サプライヤへの期待」の3点から分析を行っています。

(1)自動車メーカーでは、我が国は自動走行関連技術に早くから取り組み、「車間距離制御システム」「車線逸脱警報システム」「衝突被害軽減ブレーキ」「駐車支援システム」などを世界に先駆けて開発してきたが、欧州自動車メーカーは、「衝突軽減ブレーキ」ではなく「自動ブレーキ」といったユーザーに分かりやすいコンセプトを掲げ、サプライヤーとの連携による低コスト化を実現して日本勢を逆転しているとして、ユーザーニーズを的確に捉え、ルールづくりや低コスト化などをサプライヤとの連携で実現することを求めています。

(2)サプライヤでは、我が国は自動車メーカーとともに早くから自動走行関連技術に注目し、必要な装置を提供し、電動パワーステアリングにおいては市場をリードしたが、現在は自動走行技術に不可欠なセンサーや「センシング」、「機能安全」、「セキュリティ」、「ネットワーク」といった自動走行の実現において核となる要素技術のIPについて欧州のサプライヤーが優位であり、これら重要要素技術について巻き返しを図らないと、価値の重要な源泉を我が国として確保できず、トップランナーとしての開発が続けられないという負のサイクルに陥る恐れもあるとしています。「電動パワーステアリング」などの現在優位な分野についても欧州勢の追い上げにより楽観できないとしています。

(3)サプライヤへの期待では、自動走行のような最先端技術においては、我が国のサプライヤの競争録の低下は我が国自動車産業の強みである自動車メーカーとの「緊密な連携」「すり合わせとつくり込み」を維持することが困難になるとともに、技術のブラックボックス化も懸念されるとして、サプライヤを含めた自動車産業の競争力向上が重要であり、そのための戦略と具体的な取組が必要であるとしています。

〇 課題の整理

課題の整理は、「欧米の取組」「協調領域と競争領域の戦略的切り分け」「産学連携のあり方」「ルール(基準・標準)の戦略的活用」「IT業界との連携」の5つの視点で述べられています。

(1)欧米の取組では、自動車の開発状況に合わせて評価法を検討する我が国アプローチにとは大きく異なる方法でビジネスで優位立つ戦略で欧州勢は様々な仕掛けを駆使してきたこと、自動走行は自動車技術以上の幅広い技術を必要とすることから「協調領域」における取組が活発であること、国家レベルのプログラムを活用した取組みが積極的であり、さらに大学・研究機関も大きな役割を果たしていることが述べられています。特に、「協調領域」の成果を具体化するために基準や標準の活用に積極的でグローバルな議論をリードしているとしています。その上で、欧米の取組を真似ても我が国の強みを生かせないとしながらも、例えば「協調領域」の取組は競争力強化に生かせるとしています。

(2)協調領域と競争領域の戦略的切り分けでは、ビジネス面で優位に立てるように将来の国際的な競争環境(ルール等)の形成、大きなブレークスルーが必要な先端技術を「戦略的協調領域」として位置づけることを提言しています。具体的には、「セキュリティ」、「機能安全」、「人間の研究(眠気や集中度を判断するための指標等)」、「認識・学習アルゴリズム(走行映像データを用いた機械学習による認識技術の高度化等)」、「試験方法(事故低減効果評価方法等)」等を挙げています。

また、これまでにない価値を提供する可能性を秘めた技術については、社会的コンセンサスをとりつつ、少し先の将来像(2020 年~)を関係者が「協調」して新しい事業モデルを模索することが重要であり、ユーザーニーズに応じて柔軟に、できるところから検討に着手することが適当であるとしています。

(3)産学連携のあり方では、産学連携は「協調領域」の受け皿、先端的な研究開発や人材育成の観点から重要であるが我が国の現状は低調であるとして、長い産学連携の歴史と充実した資金や設備、先端研究から出口に近い研究までの幅広い対応が可能な欧米の産学連携を我が国に導入することは不可能としながらも、進行中の大学改革も好材料と捉えて産学連携の促進を検討すべきとしています。

(4)ルール(基準・標準)の戦略的活用では、基準や標準(自動車アセスメントを含む)といったルールは、「協調領域」を効果的に活用したビジネスを具体化・実現する重要なツールであり、基準・標準横断的な情報共有、戦略検討の仕組みづくりを産学官が連携して検討すべきであるとしています。また、その際、デジュールのルールのみならず、重要なデファクトのルール等についても合わせて考慮する必要があると述べています。加えて、経営層を含めて、自動車業界では、基準・標準を先取りすることの重要性が必ずしも認識されていないため、基準・標準に関する活動が企業内で正当には認知・評価されず、結果として、人材や予算等のリソースが不足してしまっており、業界の理解を促していく必要があるとしています。

(5)IT業界との連携では、今後、ビッグデータ解析(機械学習等)やセキュリティ、自動走行用デジタル地図等、IT 業界が強みを持つ分野の重要性は高まるとして、米国を中心とするIT 業界のビッグプレイヤーの活発な動き、ドイツのIT を手の内化しようと自動車に閉じない取組を進める動きを取り上げています。そして、エレクトロニクス産業でのバリューチェーンコア企業が、バリューチェーン全体の付加価値をコントロールするに至ったことを踏まえて、我が国自動車メーカー、サプライヤがそれぞれどのようなポジションを目指し、競争力を維持するのかは、自動車産業の帰趨を決しうる重要な論点であるとしています。

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(「自動走行ビジネス検討会 中間とりまとめ」より)

〇 今後の取組

前述の課題の整理を踏まえ、「協調領域と競争領域の戦略的切り分け」「自動走行の将来像の共有」「産学連携の促進」「ルールメイク(基準・標準等)への戦略的取組」の3つの視点から今後の取組について述べられています。

(1)競争領域と協調領域の戦略的切り分けでは、協調領域として取組むべきと指摘のあった①セキュリティ、②機能安全、③人間の研究、④認識・学習アルゴリズム、⑤試験方法、⑥基盤データベース、及びSIP の既存の取組をさらに深掘り等する形で取り組むべきであるとの指摘のあったことについて、年内を目途に、取組むべきテーマの具体化を図るとしています。

(2)自動走行の将来像の共有では、自動走行で実現すべき価値やそれを具体化するアプリケーションについて検討を行うため、検討会の下にWG を設置するとしています。具体化するアプリケーションについては、「デッドマンシステム」、「トラック隊列走行」、「ラストワンマイル自動走行」、「自動駐車」等が例示されており、これ以外のアプリケーションも含めて、できるところから検討の対象とし、来年度以降は、実証等のさらなる具体的な取組を検討するとしています。

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(「自動走行ビジネス検討会 中間とりまとめ」より)

(3)産学連携の促進では、産学連携の促進に向けてWG として設置し、国際的な議論をリードする幅広い人材育成の基盤として、自動走行における我が国の競争力強化に貢献できるよう、産業界・大学・研究機関間の人材交流・人材供給、官や産業界からの研究資金獲得、設備レベルの向上等を可能とする仕組みの実現を目指すとしています。

(4)ルール(基準・標準)への戦略的取組では、基準・標準横断的な情報共有や戦略検討を行う仕組えを経済産業省、国土交通省、関係機関が連携しながら検討を行い、年内を目処に結論を得るとしています。

 

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