人知れず消えてゆくハイテク製品のなぜ?

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新技術・新製品普及の過程

そういえばちょっと前あんなものが流行ったけど、今ちっとも見かけないなあといったものが結構あります。PDA(Personal Digital Assistant)も一時期各社から様々な製品が出ましたが、今の若い人は名前すら知らないかもしれません。音声をA/D変換してデジタルで記録、再生するテープレコーダーDAT(Digital Audio Tape)というものもありました。NTTではキャプテンシステムというものがありました。電気自動車もなかなか普及できないでいます。

華々しく市場に登場し、多少は注目を集めて売れるものの、いつしか受け入れられずに忘れ去られていく製品というのは結構あります。むしろそうした製品の方が多数かもしれません。

新技術・製品が登場し、広く普及するまでの認知度が時間経過とともに、どのように変化をたどっていくのかを示したものにハイプ曲線があります。調査会社ガートナーによって1995年に考案されたものです。

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(ITmediahttp://www.itmedia.co.jp/im/articles/0706/25/news105.html より)

新技術や新製品が多くの人に受け入れられていくまでに、製品の発表を通じて、人々の注目を集める時期(黎明期)、PR活動などで期待と話題が先行していく時期(流行期)、過度に高まった期待と実態とのずれにからくる幻滅(反動期)、真の有用性、正しい適用が徐々に知れ渡ってくる時期(回復期)、技術的成熟度や適用理解度が高まり、市場に一定のポジションを占める時期(安定期)の5つの段階を経ていくという考えです。前述の消えてしまった、あるいは消えかけているハイテク製品は、この5つの段階の反動期(人によっては幻滅期と呼んでいます)を越えられなかった製品と言えます。

新技術・新製品の購入タイプ

新しい製品や技術あるいはサービスと言ったものが広く市場に浸透していくまでの過程を購入者のタイプに分けて説明する理論があります。1962年にスタンフォード大学のロジャースによって提唱されたイノベーター理論です。ロジャースは、新商品購入の速い順にイノベーター、アーリーアダプター、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティ、ラガードと名付けました。

イノベーター(Innovators)は全体の2.5%程度で、購入の動機は新しさと革新性で、重視するポイントは商品の新しさそのものであって、商品のベネフィットにあまり注目していません。

アーリーアダプター(Early Adopters)は全体の13.5%程度で、流行に敏感でそれでいて新商品のチェック・情報収集を自ら行い購入の判断を下す積極的な層です。イノベーターと違い、世間一般的な価値観と近く、他の消費層への影響力が大きいと言われています。

アーリーマジョリティ(Early Majority)は全体の34%程度と言われ、新商品の購入には慎重ですが、アーリーアダプターの消費動向を見ながら、その商品を買うかどうかの判断をするとも言われています。

レイトマジョリティ(Late Majority)は全体の34%程度と言われ、新製品の購入には消極的であり、周囲の状況を見て、世間から認知されてきたら購入するタイプです。周囲の大多数と同じ判断をすることから「フォロワーズ」と呼ばれる場合もあります。

ラガード(Laggards):は全体の16%程度とされ、世の中の流行や動きに関心がない最も保守的なタイプです。昔から定評のあるようなものを頑なに使い続けるタイプと言えます。

イノベーター理論ではこれらの5つのタイプの内、新しいもの好きの層である「アーリーアダプター」を重要視しています。イノベータの層は何もしなくても買ってくれますので、世間一般的な考えを持ちつつ市場全体に占める割合も比較的大きいアリーアダプター層に絞ってマーケティングを仕掛け、ヒット商品を生み出すきっかけを作ろうというわけです。

イノベーターとアーリーアダプターを合わせた層は16%です。この16%に新製品が普及すると急激に他の層にも拡がっていくとして「普及率16%の論理」とも呼んでいます。

キャズム(chasm)理論

前述のハイプ曲線の横軸にイノベーター理論の5つの購入タイプを重ね合わせて、反動期あるいは幻滅期と言われる時期はアーリーアダプターとアーリーマジョリティの間にあたり、そこには「溝」が存在するとする考えがあります。ムーアの法則で有名なジェフリー・A・ムーア(Geoffrey A. Moore)が1991年の著書『Crossing the chasm』で提唱したキャズム理論です。

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(http://blog.evocator.org/2010/04/hype-chasm.html より)

ムーアは、利用者の行動様式に変化を強いるハイテク製品の場合、それぞれのタイプの間にクラック(断絶)があって、特にアーリーアダプターとアーリーマジョリティの間は超え難い大きな溝(Chasm)になっていると指摘しました。アーリーアダプター層とアーリーマジョリティ層をなす顧客の製品導入の至る基準は根本的に異なっており、製品の普及段階に応じて、マーケティングアプローチを変える必要があるとしています。その事に失敗すると、新製品やサービスが市場に登場しても安定期を迎えることなく初期市場で消えて行くことになるわけです。

イノベーターやアーリーアダプターは流行に敏感ですから新しいということ、どこにもない、誰も持っていないということがプラスになりますが、アーリーマジョリティやレイトマジョリティは、周囲の大多数が使用しているという安心感が製品購入の基準ですので、むしろ新し過ぎることはマイナスになります。

イノベーター理論ではアーリーアダプターへのアプローチを強調していますが、キャズム理論では市場の大多数を占め、安定を求めるアーリーマジョリティに対するアプローチが重要としているわけです。

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(電通報http://dentsu-ho.com/articles/2560 より)

人知れず消えてゆくハイテク製品というのは、いわばオタクの段階から、よく分からないけどみんなが使っているから、誰もが持ているからというみんなと同じであることに安心感を抱く層へのマーケティングにうまく移行できなかった製品なのかもしれません。

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