Industrie 4.0は第4の産業革命
Industrieはドイツ語で、英語ではIndustry(産業)になります。Industrie 4.0は「Revolution」とは表記されていませんが、日本語では「第4次あるいは第4の産業革命」という言い方がされています。
「第1次産業革命」は、18~19世紀にイギリスで起こった蒸気機関による本格的な工業化社会の誕生であることは歴史の勉強で学んでいます。第2の産業革命は、20世紀初頭の電力を使った大量生産の開始、第3は20世紀後半(1970年代以降)に始まった電子技術(プログラマブル・ロジック・コントローラ(PLC))の導入による生産工程の自動化と一般にはされていますが、中には多少違うとらえ方をする考えもあるようです。1次から3次までの産業革命を一言でいえば、第1次は機械化、第2次は電力活用、第3次は自動化と言えるのではないでしょうか。
Industrie 4.0はこれらをさらに進化・発展させたものですから、今後の産業の先を俯瞰した時、インターネットと人工知能の本格的な導入によって生産・供給システムの自動化、効率化を飛躍的に高めようとするものと捉えることができるのではないでしょうか。
(出典:Recommendations for implementing the strategic initiative INDUSTRIE 4.0)
「新ハイテク戦略」におけるIndustrie 4.0の位置づけ
ドイツでは2006年に「ハイテク戦略」というものを策定しました。そして、2010年に「ハイテク戦略2020」として更新され、2014年には「新ハイテク戦略 ドイツのイノベーション」なる第三弾が発表されました。
「新ハイテク戦略」は、その前までの2つのプログラムをベースとして、新たに5つの柱を策定しています。
(5つの柱)
(1)イノベーションの可能性高い優先課題を設定
(2)国内外のイノベーションネットワークを構築、トランスファーを強化
(3)イノベーションの駆動力を産業界で活かす
(4)人材育成、財政支援などの環境整備
(5)科学コミュニケーションの拡大
(独立行政法人 科学技術振興機構 研究開発戦略センター「ドイツ科学技術イノベーション政策:新ハイテク戦略より」)
この柱の一つ目である「イノベーションの可能性高い優先課題を設定」について、「新ハイテク戦略」では、「すでにイノベーションの推進力の大きい分野、経済成長が見込まれる分野を特定し、優先的に研究を推進する」として、さらに6つの優先タスクを決めています。
(6つの優先タスク)
(1)デジタル化への対応
(2)持続可能なエネルギーの生産、消費
(3)イノベーションを生み出す労働
(4)健康に生きるため
(5)スマートな交通、輸送
(6)安全の確保
(独立行政法人 科学技術振興機構 研究開発戦略センター「ドイツ科学技術イノベーション政策:新ハイテク戦略より」)
「Industrie 4.0」は、上記の「6つの最優先タスク」のうちの一つ「デジタル化への対応」の中の一項目として位置づけられています。
(1)デジタル化への対応
・Industrie4.0
・スマートサービス
・スマートデータ
・クラウドコンピューティング
・デジタルネットワーキング
・デジタルサイエンス
・デジタルエデュケーション
・デジタルライフワールド
(http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/yusikisha/20150129/siryo1.pdf より)
また、「新ハイテク戦略」を実行していくにあたって4つの重点項目(アプローチ)が示されています。
(1)連邦政府の未来プロジェクト
(2)連邦、州、ヨーロッパの協力を通じた連携
(3)効果分析による有効性確保
(4)中央諮問機関「ハイテクフォーラム」の提言
(http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/yusikisha/20150129/siryo1.pdf より)
この中の「連邦政府の未来プロジェクト」は、先の「ハイテク戦略2020」から引き継がれた「10の未来プロジェクト」です。これは「気候・エネルギー」「保健」「運輸」「安全」「情報通信」の5分野からなり、Industrie4.0は、「情報通信」分野の一つとして「10の未来プロジェクト」にも揚げられています。
(1)CO2ニュートラル社会の実現
(2)エネルギー供給構造改革
(3)再生可能エネルギー
(4)個別化医療・よりよい治療
(5)最適な栄養摂取と健康増進
(6)自立した高齢者の生活
(7)持続可能な輸送・電気自動車導入
(8)通信ネットワーク 個人情報の安全
(9)インターネットベースのサービス
(10)Industrie4.0
以上に述べた 「新ハイテク戦略」におけるIndustrie 4.0の位置づけを、図で示すと下図のようになります。
(http://www.sapjp.com/blog/archives/10462 より)
「Industrie 4.0」とは何なのか
「Industrie 4.0」とは、前述のように「新ハイテク戦略」に位置付けられたドイツ政府が産官学の総力を結集しモノづくりの高度化を目指す高度技術戦略プロジェクトですが、具体的にはどんなことを指しているのでしょうか。
一つに、インターネットなどの通信ネットワークを介して工場内外のモノやサービスを連携させ、今までにない新しい価値を創造し、新しいビジネスモデルを構築することです。いわば工場のスマートファクトリ化を実現しようというものです。しかし、単に工場の生産性をあげるだけではなく、商品の品質向上や、社会としてのエネルギー消費効率化、さらに労働者の働き方の効率化などによって社会革新を実現しようというねらいが込められたものでもあります。
スマートファクトリ化については、生産現場においてサイバーフィジカルシステム(CPS)技術を実現し、産業の高度化・生産性の高効率化を図っていくということのようです。CPSとは「Cyber Physical System」の頭文字をとったものですが、これは実世界(Physical System)の現場センサーネットワークなどの情報をサイバー空間(Cyber System)と結びつけ、実情を的確に表現することによってより効率のよい高度な運用を実現するためのサービス・システムのことです。こうした考えは以前からありましたが、近年のIOT、M2M、クラウド、ビッグデータなどの進展に伴い、CPS技術の実現が現実のもとなりつつあります。
また、同プロジェクトには、ドイツの主要企業を含む産官学の多くの企業や団体が参加しており、その意味では同プロジェクトは「製造業高度化に向けた産官学共同のアクションプラン」、「生産拠点としてのドイツの未来を確実なものにするため施策」、「製品輸出、および製造技術輸出のデュアル戦略」「革新的な生産技術、プロセスの研究・開発」といった内容までも含まれた概念ともとらえることが出来そうです。
(執筆中)
※参考文献
- 「Industry4.0 – Smart Manufacturingと 国際標準化」 IEC TC65国内委員会諮問委員会幹事 石隈 徹 (アズビル株式会社)
- 「ドイツ政府の第4次産業革命 Industrie 4.0」 科学技術振興機構 研究開発戦略センター 澤田朋子
- 「ドイツの「Industrie 4.0」戦略について」 国際社会経済研究所 草桶 左信
- 「ドイツ発 第4次産業革命 Industrie 4.0 ~産官学連携の革新~ 」科学技術振興機構 研究開発戦略センター 永野 博