トリリオン・センサー(Trillion Sensors)

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トリリオン・センサー(Trillion Sensors)

トリリオン(Trillion)とは1兆という意味です。ですので、トリリオン・センサーは1兆個のセンサと言うことになりますが、2012年に起業家のJ. Brysek氏が、毎年1兆個を上回るセンサを活用し、社会に膨大なセンサネットワークを張り巡らせることにより、地球規模で社会問題の解決に活用しようとする“Trillion Sensors Universe”という構想を提唱しました。そこからトリリオン・センサーという言葉が生まれました。

現在、世界の人口は約72億と推計されていますから、毎年1兆個以上ということは一人当たりおよそ150個という数になります。また、1年間に使われているセンサは100億個ですので、それは現在の年間需要の約100倍にも相当する膨大な数です。

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ローム社「NEハンドブックシリーズ センサーネットワーク 発行 日経BP社」より

こうしたTrillion Sensors Universeの下では、あらゆるものがセンサで覆われ、コンピュータにつながります。そしてそれは膨大なデータを生み出し、医療・ヘルスケア/流通・物流/農業/社会インフラなどに留まらず広い範囲にビッグデータの適用が広がり、私たちの生活を一変させるかもしれません。

ところで、トリリオン・センサーへの本格的な動きは、2013年にアメリカで開催された「TSensors Summit」から始まったようです。「TSensors」とは、Trillion Sensorsのことです。翌2014年には日本でも「Trillion Sensors Summit Japan 2014」が開催されています。

スマート・ダスト(Smart Dust)

Trillion Sensors Universeとよく似た構想に「スマート・ダスト(Smart Dust)」があります。 プロセッサ1基と、わずかなコンピュータメモリ、そして低電力の無線トランシーバー、電源などが納められた「mote」(塵)と呼ばれる小型センサを大量にばらまくことで、自然環境を観察したり、ビルや工場などを監視したりして得た情報を、防災、環境の観察、軍事目的などに利用しようというものです。この考えは1990年代の末に提唱されたものですが、「mote」のコストやサイズ、エネルギー効率などの問題、通信の標準化の問題、センサから送られてくる膨大なデータをフィルタリング・解析するツールの開発の問題などもあり、現在のところコンセプトの一部がセンサーネットワークとして農場や工場などの監視用途で使われているにすぎません。

スマート・ダスト(Smart Dust)では、ビルのコンクリートや道路のアスファルトの中にも混ぜたりして、遠方の道路の状態や建物の中の状態を把握するとか、空中に散布するというアイデアなどもだされていたようです。

トリリオン・センサーのロードマップ

トリリオン・センサー(Trillion Sensors)の2023年の実現のためには、センサーの生産基盤を共通化して量産化を早め、生産コストの大幅な低下を図ることが必要となります。今、そのためのロードマップづくりが進められています。当初、このロードマップは2014年中に完成する予定だったのですが、現在、完成時期は2015年の中ごろにずれ込んでいるようです。

「MEMSの波」の記事によればロードマップは下記の状況にあるようです。

 ・・・現在進められている作業は、トリリオンセンサシステムを製造し運用するための根本的なインフラとなる基盤技術を、下記に列挙したいくつかのカテゴリに分類し、それぞれの技術が実用化に至るまでのどの段階のレベルにいるか(Technology Readiness Level, TRL)を9段階でクラス分けしている。例えば、まだ基礎研究の段階のものはTRL1、実用化されたシステムとして運用済みの技術はTRL9となる。

・3D printing infrastructure

・Energy harvesting / energy storage

・Ultra low power wireless communication

・Network infrastructure / network protocols and standard / operating system

・Analysis of big data

うち、ネットワークプロトコルなど一部の領域についてはある程度実用化の目途がついてきている技術も存在するのに対し、3Dプリンティングやエネハーなどは技術的ハードルが非常に高く、多くはTRL4、場合によりTRL1にランキングされている技術も散見される。

同グループは要素技術の分類以外にも、Boundary Conditions(プライバシー、セキュリティなど社会的制約からくる要素)、Critical Dimensions(情報通信量、製造コスト、エネルギー消費量などの定量的制約)についても考察を行ったうえで、最終的なロードマップに仕上げていく方針

MEMSの波http://www.nanomicro.biz/mems/2015/01/trillion-sensor.htmlより

Trillion Sensors Universeによって新たな産業、サービス、雇用の創出

提唱者のBryzek氏によれば、「センサーを搭載したシューズをタダで配って、センサ情報で収益を得るというビジネスモデルもあり得る」として、個人が150個ものセンサーを使うようになれば、そこから得られるデータの解析やスマート・システムの開発、サービスの提供などで、多くの産業が興ると予測しています。

センサから送られ、蓄積されたデータはビッグデータとなり、さまざまなセンサからのデータを含めた多変量解析が必要となってきます。ビッグデータの解析を商品のマーケティングに利用することで販売増や新たな商品の開発、あるいは今あるサービスの付加価値をより高めることにつなげるといった展開が想像できます。ローム社の「NEハンドブックシリーズ センサーネットワーク 発行 日経BP社」には下記の例が紹介されています。

・・・空調制御に使う温度センサーの出力は、設置位置が部屋の窓際か廊下側かによって、また日照によって、その解釈が変わる。日差しが強い日に窓際に置いた場合、その出力は廊下側に置いたセンサーよりも高くなる。あるセンサーの情報は、周囲のセンサーなどの情報と連携させることで、ユーザーにとって、より価値の高い情報に変えられる。

・・・例えば位置センサーによるユーザーの座標データには価値はない。しかし、情報解析によってこのユーザーがあるコーヒー・ショップ・チェーンのコーヒーを好んで飲むことが分かれば、意味のあるマーケティング情報に変わる。つまり、大量データの組み合わせが価値を生むのだ。

・・・若年の健常者はいずれ高齢になり、病気を患う。若い健常時からの生体データをセンサーで取得して蓄積しておけば、病気になるまでの過程を解析することで病気になる予兆を見いだせる。

ローム社「NEハンドブックシリーズ センサーネットワーク 発行 日経BP社」より

こうした新しいサービス、新しい産業の創出はもちろんですが、今ある産業においても大きな需要を起こすであろうことは想像できます。単にセンサー需要が増えるというだけではありません。すでにビッグデータ処理などのためNTTやGoogleなどが大きなデータセンタを相次いで建設中です。1サイト400~500億円の投資といいますから、今後さらに必要となってくることを考えると、サーバーへの投資が増えていくことは間違いないでしょう。またサーバーに使われる基板をはじめ、交換機、次世代ルーターなどのメーカでは、相当ハイエンドな高多層基板が必要になりますから、基板ニーズも高まってきます。さらにTrillion Sensors Universeでは、随所から集めたデータを解析するための知見や、データをフィードバックするためのアルゴリズムが必要となります。そうした人材育成も急務となってくるでしょうし、そのためのビジネスも生まれてくるかもしれません。

「Trillion Sensors Summit Japan 2014」で紹介されたセンサー等の研究

リニアテクノロジーの「Dust Networks」

消費電力がきわめて小さく電池だけで数年以上動作するのが特徴である。同社は応用拡大を図るためコンソーシアムの結成を計画中である。

米Rambus社のレンズレスの超小型イメージセンサー「PicoCam」

80μmほどの回折格子を通したあと演算処理によって元画像を復元する。高精細な用途には適さないが、内視鏡など特定分野の応用を開拓したい考え。

NEXCO東日本の「スマート・ハイウェイ」構想

従来のような人手による点検作業にセンサーやICTの融合が重要。2020年までに社内組織として「インフラ管理センター」を設立し、センシングデータや点検データの集約を一元化して、インフラの効率的な維持管理に努めていく。

カリフォルニア大学サンディエゴ校のセンサー製造の研究

ナノ粒子をインクとして用い、凹版印刷のようにセンサーを大量かつ安価に製造する方法、シール型の「電子タトゥー」センサーや、大面積の「電子スキン」といった研究成果の一端を紹介した。

オランダHolst Centreの生体データのセンシング

呼気中の特定の臭いに反応してコレステール量を検知するような選択性の高いケミカルセンサーが開発されることで、応用のさらなる拡大が見込める。

米Proteus Digital Health社の「デジタル薬品」

1mm角程度のチップを錠剤に入れて、薬を服用したときにチップから出るシグナルを体に貼ったパッチセンサーで捉え、たとえば臨床試験において試験薬の服用を確認するといった目的に利用する。

独立行政法人・産業技術総合研究所の「ポリスチレン製細胞チップを使ったマラリア診断法」

検出に時間がかかり精度も課題となっているマラリアの感染を高精度かつ短時間に検出できるという。エチオピアとウガンダでフィールドテスト中であり、早期の実用化を目指す。

インテリジェントセンサーテクノロジーの九州大学の都甲潔主幹教授が開発した味覚センサー

同社の味覚センサーは、酸味、塩味、甘味、苦味など、特定の味物質に反応する複数の薄膜センサーを組み合わせた「味のものさし」であり、海外を含めて350台以上の納入実績があるという。味データを分析することで地域ごとの好みや商品の傾向が判るほか、飲みやすい小児用薬品の開発に有効。

東北大学教授のヒト型ロボットの全身を覆うような面積の広い触覚センサー

個々のセンサーの小型化を図るためMEMSセンサーとCMOSロジックを一体にした小型センサーチップを外部ファブを利用して開発し、バス型トポロジーで接続した。

 

東京大学の膜蛋白センサーと体内埋め込みセンサー技術

前者は特定の臭い分子などを選択的かつ高感度に検出できるという。後者は、マイクロビーズ型あるいはファイバー型のセンサーを体内に埋め込んで血糖値やバイタルデータを24時間測定する。

 

(日経テクノロジー オンライン http://special.nikkeibp.co.jp/ts/article/ad0c/162663/ より)

 

(執筆中)

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