デジタルヘルス

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デジタルヘルス

最近、デジタルヘルスあるいはデジタルヘルケア、スマートヘルスなど、IT技術と健康・医療・介護との関連記事が増えているように感じます。ヘルスケアの市場に、従来の医療機器の企業だけでなく、電子機器のメーカーやIT関連のメーカーなど様々な業種の企業も参入してきています。とはいっても、まだどちらかというと、新興IT企業やベンチャー企業で話題が先行していた感のあるデジタルヘルスですが、2015年4月には経済同友会が「デジタルヘルス ― システムレベルでのイノベーションによる医療・介護改革を」という政策提言を発表するなど、デジタルヘルスは成長の見込める分野として企業の大きな関心事になってきているようです。ちなみに、経済同友会の報告書は、①日本の医療・介護の現状、②デジタルヘルスによるイノベーション、③イノベーションの可能性:重点的に取り組むべき領域、④イノベーション実現に向けて――など17ページで構成されています。報告書の中では、日本の医療・介護は、大きな転換点にあるとして、医療・介護システムの変革においては「不要な保険給付の削減」「自己負担の適正化」「イノベーション(生産性向上と成長ドライバーの構築)」の三位一体の取り組みが不可欠であるとしています。その上で、デジタル化による医療・介護システムのイノベーションが現実のものとなりつつある現在、従来の仕組みと視点だけを前提としていてはならないと強調し、「デジタルヘルス」によるイノベーションを中心に今後の「政策の在り方」「ビジネスの役割」について方向性を示しています。

デジタルヘルスの定義は?

デジタルヘルスの定義は実に曖昧なようで、フィットネス支援、健康管理などのヘルスケア、Telemedicine (遠隔診断)、Telehealth (遠隔治療)遺伝子解析、介護、医療事務、医療ビッグデータ、EMR (電子カルテシステム)、院内連携システムの他、近年ではモバイルデバイスや健康管理アプリといったサービスまで実に幅広く、とらえどころのない領域と言えそうです。

日経デジタルヘルスでは、「デジタルヘルス」のカバー領域を次の表のように示しています。

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(日経デジタルヘルスhttp://techon.nikkeibp.co.jp/article/HONSHI/20140116/327929/ より)

経営コンサルティング会社A.T. カーニーの「デジタルヘルスを取り巻く環境変化」では、デジタルヘルスを次のような類型で示しています。

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(A.T. カーニー「デジタルヘルスを取り巻く環境変化」より)

デジタルヘルスの市場

前述のようにデジタルヘルスの定義が曖昧なため、当然ながらデジタルヘルス市場のとらえ方も曖昧なものです。従って、市場規模は調査機関によって様々な値が報告されています。ただ、今後成長が見込まれる分野であることは間違いないようです。

株式会社 ローランド・ベルガーの「THINK ACTデジタルヘルスの本質を見極める」では、グローバルデジタルヘルス市場は、2020年時点で1,000億ドル以上の規模が期待されていると予想しています。

デジタルヘルスの市場予測[US十億ドル]

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(株式会社 ローランド・ベルガー「THINK ACTデジタルヘルスの本質を見極める」より)

米Tractica社は2015年4月に公表したレポート”Home Health Technologies“の中で、ホームヘルスケアテクノロジーの利用者は全世界で2014年では1430万人であったが、2020年までには7850万人にまで増加するだろうと予測しています。

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(Tactica社プレスリリースよりhttps://www.tractica.com/newsroom/press-releases/more-than-78-million-consumers-will-utilize-home-health-technologies-by-2020/ より)

デジタルヘルスの市場拡大への課題

今後市場が伸びると予想されているデジタルヘルスですが、デジタルヘルスを事業として成立させるにはいくつかのハードルがあるとローランド・ベルガーは「THINK ACTデジタルヘルスの本質を見極める」の中で指摘しています。そのハードルとは次の3つです。

① マネタイズの難しさ

価値を生み出すために必要な投資・コストとサービス享受者が支払うプレミアムの差分が利益となって企業には戻ってくるのだが、現状のデジタルヘルスビジネスでは、この差分に魅力があるビジネスがあまりないのが現状であり、デジタルヘルスの実証実験を多くの企業や医療機関がやっても事業化に至らない背景には、こうした魅力的で持続可能なビジネスモデルが描けていない実情がある。

② ステークホルダー(企業の経営活動に関わる利害関係者)の多さ

医療産業はそもそもステークホルダーが多い業界だが、加えて通信事業者やシステムプロバイダなど、医療業界の外のプレイヤーとも連携が必要になる。ステークホルダーが増えることは、結果的にビジネスモデルを極めて複雑にしてしまう。

③ ライフサイクルの早さ

近年のビジネス業界の進歩は目まぐるしく、VUCAワールド(Volatility = 不安定で、Uncertainty = 不確実性が高く、Complexity = 複雑で、Ambiguity = 曖昧な) という言葉で表されている。こうした中で新たなビジネスを行う場合に『投資回収可能か?』ということが懸念される。その結果として、リスクを恐れて事業として投資を渋るということもありうる。ライフサイクルが長く、数年先のトレンドがかなりの精度で把握できる従来の医療業界と、デジタルヘルスは正反対の業界である。

(株式会社 ローランド・ベルガー「THINK ACTデジタルヘルスの本質を見極める」より)

イノベーション実現に向けて

成長が期待されるデジタルヘルスではありますが、前述のような課題もあり、実際にイノベーションを創出にはどうすればよいのでしょうか。このことに関して、経済同友会の「デジタルヘルス ― システムレベルでのイノベーションによる医療・介護改革を」では、具体的に4つのことを指摘しています。

(1) マルチステークホルダーでのイノベーションの場作り

既存のシステムの各ステークホルダー──政府・自治体・学会・サービス提供事業者・保険者・民間企業──の協働が不可欠であり、ヘルスケア分野のシステムを変革していくには、産学に留まらず、マルチステークホルダーが集い、システムを設計し、実装し、実行していく場を作る必要があるとしています。そして、政府当局が主導して、産官学の参画を促すとともに、必要に応じ、医療法や健康保険制度の改正も視野に入れた議論ができるような場にすることでシステムレベルでのイノベーションが実現できるとしています。

(2) 特区の活用による既存システムとの連結

システムのイノベーションを進めていく上で、既存システムとの連結で大事であり、難易度の高い取り組みになる。そのため国家戦略特区、地方創生特区などの規制緩和・政策的支援の枠組みを活用して、意欲のある自治体と連携し、試験運用から始めるべきとしています。

(3) 規制のグレーゾーンを減らす努力の継続

医療・介護・健康にかかわる各種データの取り扱いについて個人情報保護法上のグレーゾーンが残っていると、情報取り扱いの適法性判断が困難となり、新規事業ひいてはイノベーションの創出が阻害されるおそれがあるとして、こうしたグレーゾーンを減らしていくためには、企業実証特例制度およびグレーゾーン解消制度の活用や、必要な規制改革や法整備を迅速に行う必要があるといしています。

(4) 将来課題:健康保険制度の適用範囲見直しと民間保険の拡充

医療・介護に係る社会保障費用の抑制(パイの縮小)と、ヘルスケア分野で新たなビジネスを生み、経済成長に貢献すること(パイの拡大)は、一見矛盾をはらんでいる。

この矛盾を超克するために、将来的には健康保険制度の適用範囲を適正に見直すとともに、民間保険の拡充を図ることも必要になってくるとしています。

(経済同友会「デジタルヘルス ― システムレベルでのイノベーションによる医療・介護改革を」より)

 

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