IoTと農業(スマート農業の課題)

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スマート農業

2013年11月に農林水産省はロボット技術や情報通信技術(ICT)を活用した次世代農業(スマート農業)の実現に向け、農機メーカーやIT企業などで構成する研究会を設置しました。昨年(2015年)の3月には中間取りまとめを公表しています。

スマート農業の定義は明確になっているわけではありませんが、農業機械の自動走行による超省力・生育データなどの計測・分析に基づく精密な管理による多収化や品質向上、アシストスーツの利用による重労働や危険な作業からの解放、プロ農家の技をデータ化して女性や新規参入者でも高度な技術を利用できるようにすること、クラウドを利用したマーケティングなど、これまでの勘と経験に頼った農業から、データに基づく科学的農業へのパラダイムシフトがスマート農業と言えそうです。

スマート農業が必要とされる背景には、日本の農業が抱える高齢化や生産性の低さなどの問題があるようです。研究会設立の趣旨には次のように書かれています。

「我が国農業の現場では、担い手の高齢化が急速に進み、労働力不足が深刻となっており、農作業における省力・軽労化を更に進めるとともに、新規就農者への栽培技術力の継承等が重要な課題となっています。他方、異業種では、ロボット技術や人工衛星を活用したリモートセンシング技術、クラウドシステムをはじめとしたICTの活用が進展しており、農業分野への活用が期待されています。このため、ロボット技術やICTを活用して超省力・高品質生産を実現する新たな農業(スマート農業)を実現するため、スマート農業の将来像と実現に向けたロードマップやこれら技術の農業現場への速やかな導入に必要な方策を検討する」

スマート農業の実現によって、日本の農業の問題を解決し、さらには、農業を魅力ある産業として新たなビジネスに育てていこうという考えもあるようです。

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日本の農業の現状

農林水産省が発表した2013年の食料自給率はカロリーベースで39%です。1965年には73%あったのですが、減少傾向に歯止めがかかりません。日常的に農業に携わる基幹的農業従事者は1960年の1175万人から2013年には168万人まで減り、その6割以上が65歳以上の高齢者が占めています。さらに、1961年に609万ヘクタールあった農地面積は、2014年には452万ヘクタールまでに減少、耕作放棄地面積は1985年までは、およそ13万haで横ばいでしたが、1990年以降増加に転じ、2010年には39.6万ha(概数値)となっています。農地面積が減少する中、耕作放棄地面積率は、1990年から2010年にかけて約2倍に増加しています。農業生産を支える農家や農地の減少が止まらず、生産基盤の弱体化はいっこうに改善されていません。

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(「知ってる?日本の食料事情」~日本の食料自給率・食料自給力と食料安全保障~平成27年農林水産省より)

「世界がもし100人の村だったら」という本をご存知だと思いますが、世界をひとつの村にたとえ、人種、経済状態、政治体制、宗教などの差異に関する比率はそのままに、人口だけを100人に縮小して説明している小文です。もし、これを今日の日本の農業・漁業に当てはめるとこうなります。

『100人の日本村は3人の人々が土を耕し種をまき、舟をこぎ出し網を上げている。それを97人がわがまま放題にむさぼり、不平をたれている村である。しかも、3人の担い手のうち、1人は65歳以上で、もうひとりすでに70歳を超えている・・・』

実は、これが日本の農業・漁業を取り巻く現実なわけです。

低い生産性

下図からも分かるように、日本は農業従事者11人あたりの農用地も農業GDP も諸外国と比べると少なくなっています。個々の品目を見ても、例えば、海外でも人気のある「りんご」でも図のように反収(農地面積10 アールあたりの収穫量)は少なく、生産性が低いと言わざるを得ません。農産品は、品質の高さも大事な要素であり、生産量だけで生産性を議論できないかもしれませんが、前述の日本の農業の現実を考えたとき、付加価値を高めると努力もさることながら、効率よく生産することが農業従事者の所得確保のためにも求められると思います。

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(大和総研 日本の農業の効率性改善の鍵はIT~IoT 時代のIT 投資と「稼ぐ力」:農業分野~より)

低い農業へのIT投資

米国の農業におけるIT 投資毎年増加しており、その額は2013年で約70億ドル、1ドル100円とすれば7000億円(全体の約18%)にも達しています。それに対して日本は、独立行政法人経済産業研究所のデータによると、年度は違いますが2011年で約527億円で、農業全体の投資に占める割合は約2.1%しかありません。しかも、日本は1999年(約728億円)をピークに減少傾向にあります。

また、IT ストック(情報資産ストック)についても、米国は年々増加しており、2013年のIT ストックは約348 億ドル(1ドル100円として約3兆5000億円)で、農業全体のストックに占める割合は7.6%にもなります。それに対して、日本は2001年の約2835億円をピークに減少し続けているそうです。

こうした結果として、下記表のようにアメリカと日本の農業の生産性の差となって表れているようにも思えます。

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(大和総研 日本の農業の効率性改善の鍵はIT~IoT 時代のIT 投資と「稼ぐ力」:農業分野~より)

人口増加と食糧問題

ローマクラブは1970年代に「成長の限界」とういう報告書を出し、その中で、2030年には危機的な食料不足が訪れると警告しました。あと15年後です。FAO(国際連合食糧農業機関)は、2009年に出した「2050年の世界を養う」というレポートの中で、地球人口は92億人ほどになり、現在の食料増産レベルでは追いつけず、現在の飢餓人口約9億人が更に増大するとしています。

食糧の不足については、単なる人口増によるものだけでなく、経済の成長に伴う生活の変化が食事のパターンを変えることによってももたらされます。日本のこれまでの食生活の変化を見ても分かります。かつて日本では米中心の食事でした。しかし生活が豊かになるにつれ、肉など動物性食品の消費を大きく伸ばしてきました。これから発展してくる国々においても同じようなことが起きてくるでしょう。ここで問題になるのは、畜産物1kgの生産には、その何倍もの飼料穀物を家畜に与える必要があるということです。例えばトウモロコシで換算すると、1kgの牛肉を生産するのに11kg、豚肉では7kg、鶏肉では4kgも必要になってきます。より豊かな食は一方で、人間が得る熱量ベースでは極めて非効率なものにしてしまうのです。

食糧生産を増加させようとすれば、環境への負荷を増大させることにもなります。例えば日本では、家畜飼料を大量に輸入していますが、その結果として大量の窒素が環境に放出されています。農薬についても、近年使用料が減ってきたと言っても高温、多湿な気候のため欧米の3倍強の農薬が使われています。さらに、食糧生産には大量の水が使われています。例えば、米、小麦、牛肉1kgの生産にそれぞれ3.6t、2t、20tもの水が必要とも言われています。

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スマート農業のすがた

「中間のとりまとめ」では、スマート農業が解決を目指す目的として次の5つを示しています。

・・・ロボット技術やICTの導入によりもたらされる新たな農業の姿を以下の5つの方向性に整理した。

① 超省力・大規模生産を実現

トラクター等の農業機械の自動走行の実現により、規模限界を打破

②  作物の能力を最大限に発揮

センシング技術や過去のデータを活用したきめ細やかな栽培(精密農業)により、従来にない多収・高品質生産を実現

③ きつい作業、危険な作業から解放

収穫物の積み下ろし等重労働をアシストスーツにより軽労化、負担の大きな畦畔等の除草作業を自動化

④  誰もが取り組みやすい農業を実現

農機の運転アシスト装置、栽培ノウハウのデータ化等により、経験の少ない労働力でも対処可能な環境を実現

⑤  消費者・実需者に安心と信頼を提供

生産情報のクラウドシステムによる提供等により、産地と消費者・実需者を直結

(「「スマート農業の実現に向けた研究会」検討結果の中間とりまとめ」より)

また、スマート農業では、AI(Agri-Informatics)農業や精密農業といった新たな農業手法や、ネットワーク、情報端末、クラウドコンピューティング、リモートセンシング、ロボット等の他の分野とも共通する汎用的なハードウェア・ソフトウェア技術を活用します。

AI農業とは、経験と勘による「匠の技」とを、誰でも使えるように「形式知」化をするものです。具体的には、様々なセンサーやウェアラブル端末等によるモニタリングで自動取得した大量のデータを分析し、システム化していきます。

精密農業とは、センシング技術や過去のデータに基づき、農作物の収量及び品質の向上を目指す農業システムのことで、その作業サイクルを支援するツールにICTやロボット技術が活用されます。

リモートセンシングとは、センサーを用いて対象を遠隔から計測する手法で、フィールドサーバ等による地上からの計測、無人航空機(UAV)による空中からの計測、人工衛星による宇宙からの計測等です。IoTの実現によって将来的には、M2Mから得られたビッグデータの解析結果を生産性の向上につなげていくことが期待されます。

農業におけるロボットの活用は、農業従事者の高齢化・減少傾向から大いに期待されるものです。ロボットトラクター、ロボット田植え機、ロボットコンバイン、アシストスーツ、収穫ロボット、運搬ロボット、搾乳ロボット等があります。

(スマート農業の推進 ― ICT・ロボット等を活用した農業の取組 ―農林水産委員会資料参照)

スマート農業の課題

スマート農業を実現するにあたって、様々な課題があります。以下に、「中間のとりまとめ」などを参考に課題を示してみました。

(1)コストの問題

みなさんはコンバインや田植え機の値段を知っていますか?ドイツ製高級外車ほどの値段なのです。コンバインで1000万円を超えます。それも使うのは1年に数日です。なぜ、こんなにも農機具は高いのか。それは、農業機械市場が小さいことに大きな要因があります。スマート農業の普及においても、コストが最も大きな課題となると考えられます。さらに、農業分野におけるICTやロボットの利活用は始まったばかりで、費用対効果の見通しが不透明です。また、農業者の多くは小規模・零細であり、投資余力は限られています。こうしたことから、標準化、既存技術・部品の活用等により、開発コストをいかに低く抑えるかが課題となってきそうです。

コストとの問題は機器の導入だけでなく、センサー、システム等の高度な機能を維持していくためにもコストがかかります。仮に、故障等に伴う保守作業量が増加すると、農作業に支障を与える可能性もあります。こうした負担を軽減するための方策も必要となります。

(2)人材の育成とサポート体制

農業は、他の産業分野と比較して、スマート化が進んでいるとは言い難い状況です。機器を使いこなすためのサポート体制や農業分野におけるIT利活用に精通した人材の育成が求められます。

(3)セキュリティの確保

セキュリティの問題は農業分野に限ったことではありません。農業に関していえば、農家が長年の経験から編み出したそれこそ秘伝の栽培技術があります。そうした「匠の技」、いわゆる「知的財産」が漏洩するという危険もあり、そうしたことへの対応も求められます。

(4)標準化

これも農業に限らないのですが、スマート農業を普及させるためには、農業関連データ等の標準化を進め利便性を高める必要があります。個々の企業によって独自のシステム、独自の規格では相互運用性と可搬性が犠牲になってしまいます。

(スマート農業の推進 ― ICT・ロボット等を活用した農業の取組 ―農林水産委員会資料参照)

 

 

 

 

 

 

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