コンテキストテクノロジー

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コンテキストの時代

2014年10月に「コンテキストの時代―ウェアラブルがもたらす次の10年」(原題:Age of Context: Mobile, Sensors, Data and the Future of Privacy)という本が出版され、話題になりました。

顧客一人ひとりの趣向や属性、購買履歴などから個別のマーケティングを展開することをone to oneといいますが、本書ではそれによく似たことをコンピュータが、ユーザーに対して行う未来、つまり、ユーザーが置かれている状況を把握し、今どんな情報を知りたいか、これからどんな情報が必要となるかを予測して、ユーザー一人一人に合った最適の情報を提供するようになる時代を予想しています。コンピュータが心と行動を先読みする時代、コンピュータが空気を読む時代とも言えるでしょうか。このようなシステムがユーザーの置かれている状況や背景を読み取り、必要とするサービスを判断したり予測したり、的確に提供することを本書では「コンテキスト化」と呼んでいます。そしてこの「コンテキスト化」の動きは、ウェアラブルの普及によって加速し、コンピュータがユーザーを手助けするアシスタントになっていくとしています。

本著は、次のような構成になっており、数々の事例を紹介しながら「コンテキスト化する社会」とは何かを論じています。

01 5つのフォースが未来を支える

02 顧客のコンテキストを読みとる

03 コンテキスト自動車への道

04 自動運転車でドライブする

05 未来をつくる新都会派の人々

06 医療とヘルスケアにも浸透し始める

07 グーグルグラスでのぞく世界

08 なぜウェアラブルが重要なのか

09 パーソナル・アシスタントがやってくる

10 コンテキストのあるわが家は最高

11 ピンポイント・マーケティング

12 信頼こそが新たな通貨

(ロバート・スコーブル、シェル・イスラエル 著 発行元 : 日経BP社 より)

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(http://www.huffingtonpost.com/vala-afshar/robert-scoble-welcome-to_b_5594757.html より)

コンテキストとは

さて、本書のタイトルになっている「コンテキスト」ですが、日本語では「文脈」、「背景」、「前後の事情」、「状況」などと訳されています。文学的な意味としては、「文章の前後のつながり」と理解できるかもしれません。

文脈や背景と言えば、こんな笑い話がありました。小学校1年生の担任の先生が、ちょっと用事ができたのでクラスの子供たちに、「先生の(が)くるまでちょっと待っててね!」 と言って職員室へ出かけ、しばらくして教室に戻ると子供たちがいなかったそうです。どこへ行ったのだろうと探すと、担任の先生の「車」のところにいたというのです。「の」と「が」の言い違いでだけでなく、これなど先生と子供の生活の「文脈」「背景」の違いによる勘違いであり、いわば双方共通のコンテキストを持ていなかったことと、コンテキストのすり合わせがなされていなかったことによるものなのかもしれません。

また、社会科学の分野では、コミュニケーション論を語るときに「ハイコンテクスト文化」「ローコンテクスト文化」という言葉が使われることがあります。コンテクストもコンテキストも「Context」で同じです。ここで使われている「コンテクスト(Context)」は言語・共通の知識・価値観などの意味です。そして「ハイコンテクスト文化」とは、お互いに相手の意図を察しあうことで、なんとなく通じてしまう環境を指し、「ローテクスト文化」とは、コンテクストよりも言語によりコミュニケーションを図ろうとする傾向の強い文化を指します。前者は日本的であり後者は欧米的といえます。

では、ITの分野ではどういう意味合いで使われているのでしょうか。コンテキストという言葉が付いたものに「コンテキスト・スイッチ」があります。ウィキペディアによれば、

「複数のプロセスが1つのCPUを共有できるように、CPUの状態(コンテキスト)を保存したり復元したりする過程のことである。」

とあります。

ビジネスの分野ではコンテキスト・マーケティン(Context Marketing)という言葉があります。野村総研の経営用語基礎知識によれば

「・・・消費者が置かれた日時、場所、行動などのコンテクストを把握し、特定のニーズが生まれたタイミングをうまく捉え、それに対応した商品やサービスなどを訴求することで、購買意欲を効率的に高めようとするマーケティング手法」

とあります。

IT技術に関しては、2010年にガートナーが提唱した「コンテキスト・アウェア・コンピューティング(Context-Aware Computing)」があります。Awareは「気づき」と言った意味ですから、コンテキスト・アウェアは直訳すれば「文脈からの気づき」「状況からの気づき」といったところでしょうか。ここでの意味は、様々なシステムやセンサーなどから得られる情報と人とをリアルタイムで結び付け、システムがその人にとってその時点で最適な情報や機能を判断して提供する技術を指しています。

コンテキストテクノロジー

コンテキストの時代には、例えば、スマートフォンが私設秘書のように状況に応じた有益な情報を推薦し、一日の行動を示してくれるかもしれません。コンテンツがコンテキストに関連づけられる形でユーザーに情報を見せようとしている点でGoogleのInboxなどはこれに近いかもしれません。また、帰宅に合わせてお風呂が沸き、空調が整えられた快適な住環境が提供されたりするようになるかもしれません。高齢者にはとってもありがたい社会です。ビジネスにおいても、コンピュータが気を利かせ、いつもと違うカスタマイズされた「おもてなし」を顧客に提供するようになるかもしれません。

コンテキストテクノロジーは生活を便利にしてくれる反面、そうしたサービスを受けるためのプライバシーをどこまで提供するのかという課題も生じてくるかもしれません。

 

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