エコシステム

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エコシステム

「エコシステム(Ecosystem)」という言葉をよく耳にするようになりました。特にIT系企業の新しいビジネスモデルや戦略を説明する言葉として使われることが多いようです。コトバンクには次のように書かれています。

・複数の企業が商品開発や事業活動などでパートナーシップを組み、互いの技術や資本を生かしながら、開発業者・代理店・販売店・宣伝媒体、さらには消費者や社会を巻き込み、業界の枠や国境を超えて広く共存共栄していく仕組み。本来は、生物とその環境の構成要素を1つのシステムとしてとらえる「生態系」を意味する科学用語。
・経済界のエコシステムでは、系列の違う複数の企業、時にはライバル関係にある企業が互恵関係を結ぶこともあり、この点で、生産・物流・販売など特定の活動で連携するアライアンスや、1つの商品を共同開発・共同製造するコラボレーションなどとは異なる。

(コトバンク より)

コトバンクに「生態系」を意味する科学用語とあるように、「エコシステム」という用語はオックスフォード大学の植物学者タンズレー(Arthur G. Tansley, 1871-1955)教授によって生物と生物、生物と環境の依存関係を表す言葉として提唱されたようです(1935年)。それを日本語で「生態系」としたのは生態学者の沼田眞(1917-2001)教授です。ちなみに沼田眞の弟の沼田武氏は千葉県知事を務めています。

タンズレーは、エコシステムを「有機体の複合体のみならず、我々が環境と呼ぶものを形づくる物理的要素すべての複合体としての全体のシステム」という定義づけをしました。動物や植物、あるいは土壌や気候という全く異質の要素で構成され、それぞれが相互に関係し合い一つのシステムとして調和しているということから単なるコミュニティではないものとして「エコシステム」と表現したようです。異質の要素でできているということは、それがシステムにうまく組み込まれなければ、その調和が壊れてしまうという危うさもあると言えます。

ところで、ビジネスの分野において、ITやグローバル化の進展などによって、企業は自社事業のポジションを業界の枠の中だけで定めていては、発展はおろか将来のビジョンも戦略も描けないような状況になりつつあります。そこで、業界の枠を超え、多様な産業のプレイヤーが参画するネットワークの中で自社のポジションを定めていこうとする動きが進んでいます。前述の生態系でいえば、異質な要素で構成されたシステムの一つとしてのポジショニングともいえます。生物学上の生態系が生き残っていく鍵となるのは生物の多様性であるように、ビジネスでのエコシステムにおいても複数の異質の企業等が結びつき、循環しながら共存共栄していく仕組みとしてとらえることができるようです。

ビジネスの分野でエコシステムということを提唱したのは1990年代半ばに、James F. Mooreによるものが最初だと言われています。その後、Marco Iansiti と Roy LevienとがThe Keystone Advantage(『キーストーン戦略~イノベーションを持続させるビジネス・エコシステム~』2007年:翔泳社)を著し、広く知られるようになったとのことです。そこでは、「ビジネス・エコシステムは多くの主体が大規模に緩やかに結びついたネットワークから形成されている」としています。アマゾンの商品説明には、本書の内容について次のように書かれています。

・・・・従来「ビジネスモデル」と呼ばれることの多かった自社の視点での収益モデルだけでは、実効的な事業戦略や事業ドメイン戦略、事業システムが描けなくなってきた。
ここで注目されるのが、「エコシステム」という概念である。自社中心ではなく、まず事業環境としての共生的な企業間関係があって、そのなかでの自社のあり方を捉えていく。自社のリソースだけでなく、外部のリソースと組み合わせて製品・サービス・ソリューションを構築するのである。・・・いまや、自社単独で実現できるイノベーションの余地はほとんど存在しない。ビジネスのやり方を変えるには、複雑な他社との共生関係への影響を熟慮しなければならないのである。・・・・

(https://www.amazon.co.jp/%E3%82%AD%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%B3%E6%88%A6%E7%95%A5-%E3%82%A4%E3%83%8E%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%82%92%E6%8C%81%E7%B6%9A%E3%81%95%E3%81%9B%E3%82%8B%E3%83%93%E3%82%B8%E3%83%8D%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%82%B3%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0-Harvard-Business-School/dp/4798112437 より)

コトバンクには「アライアンスやコラボレーションなどとは異なる」として、その違いを述べていますが、もう一つよく似たことばに「クラスタ」があります。

クラスタは葡萄の房を意味しますが、ビジネス用語としては「集団」あるいは「集積」といった意味で使われます。アメリカの経済学者マイケル・ポーターの定義では「クラスタとは、ある特定の分野における、相互に結びついた企業群と関連する諸機関からなる地理的に近接したグループであり、これらの企業群と諸機関は、共通性と補完性によって結ばれている」としています。この定義だけではエコシステムとの違いが分かりにくいのですが、一つ上げるとすれば、エコシステムは必ずしも地理的に接近している必要はないということでしょうか。

クラスタの例として挙げられるのは、カルフォルニアのワインクラスタやシリコンバレーなどです。シリコンバレーを地理的なエコシステムとする考えもあるようです。

いずれにしても、エコシステムの定義や扱う範囲は様々なように感じます。ダートマス大学のロン・アドナー教授は、エコシステムを「複数の企業がそれぞれ持てるものを提供し合い、1つのソリューションにまとめて顧客に提供するコラボレーション」と定義づけ、イノベーション・エコシステムという位置づけをしています。
また、平成24年度版情報通信白書では、アメリカのネット系事業者の「エコシステム」として、アップル、グーグル、アマゾンが掲載されています。

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(平成24年度版 情報通信白書より)

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