アンバンドリングとスマイルカーブ

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通商白書2017

平成29年度の通商白書の概要が2017年6月27日に発表になりました。今年の白書は、格差の拡大を背景とする反グローバリズムが台頭する中で、保護主義に対抗するメッセージが強く打ち出されたものとなっているようです。
今年のメインメッセージは、

(1)自由貿易は成長のエンジンであり格差縮小に寄与
(2)「21世紀型の通商政策」が強く求められている
(3)「21世紀型の通商政策」は、①イノベーションを支え、②インクルーシブ(包摂的)な成長を志向するもの

といったことを挙げています。

メッセージの(1)に関しては、格差は技術革新に起因するとしていること、メッセージの(2)では、製造工程のアンバンドル化とスマイルカーブ変形で貿易が「モノ」から「価値」へと変化していることなどが述べられています。

格差と技術革新

反グローバリズム・保護主義的な動きの広がりの背景に、自由貿易による所得格差の拡大があるという考えがあります。白書ではこのことについて分析し、世界全体での格差は減少しており、貿易の活発化がそのことに貢献していると「The Globalization of Inequality」(François Bourguignon)のジニ係数の推移を示しながら述べています。それによれば、1990年には0.70だったものが、2010年には0.62へと減少しており、特に2000年以降の格差縮小のペースは急速にすすんでいるとしています。

他方で、先進国では格差が拡大の方向に推移しているが、それは技術革新の影響が大きく、むしろ自由貿易は教育政策とともに格差の縮小の要因となっているとしています。先進諸国の2014年のジニ係数は、OECD Income Distribution Database (IDD)によれば、アメリカが0.394、イギリスが0.358、日本が0.33、フランスが0.294、ドイツが0.292、スウェーデンが0.281となっています。OECD雇用労働社会政策局が2014年12月に発表した資料では、OECD諸国のジニ係数は約30年間で3ポイント上昇し、アメリカ、フィンランド、スウェーデン、ニュージランドなどは5ポイント上昇したとしています。

白書では、IMF の2007年の分析を参考に、先進国の格差拡大の主な要因分析を行っています。そして、格差の要因を技術革新(ICT投資)であるとしています。しかしながら、ICT投資の推進は、我が国の経済成長力に不可欠であり、格差の是正等に対しては労働政策、教育政策等で講じるべきとしています。さらに、GDPに対する貿易額の比が高い国はジニ係数が低い、つまり、所得格差が低い傾向がみられるとしています。

trade_white_paper2017_001_R(通商白書2017概要 平成29年6月27日 経済産業省 通商政策局 http://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2017/pdf/2017_gaiyou.pdf より)

アンバンドル化とスマイルカーブの変形

白書では、通商政策を取り巻く環境の変化として製造工程のアンバンドル化による「グローバル・バリュー・チェーン」の飛躍的な発展とスマイルカーブの変形ということを挙げています。

アンバンドル(unbundle)には、切り離す、バラ売りするといった意味があります。KDDIの用語集では

一括して提供されていた商品やサービスを、解体あるいは細分化すること
http://www.kddi.com/yogo/%E7%B5%8C%E5%96%B6%E3%83%BB%E3%82%AC%E3%83%90%E3%83%8A%E3%83%B3%E3%82%B9/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%90%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AB.html より)

とあります。

製造工程のアンバンドル化とは、製造工程が細分化され、国境を越えて分散し、相互に相互ネットワーク化されている状況といえます。白書では、そのことを可能にしたのが情報通信技術のITC革命であるとしています。

trade_white_paper2017_002_R(Value Creation and Trade in 21st Century Manufacturing: What Policies for UK Manufacturing http://repository.graduateinstitute.ch/record/87357/files/value-creation-baldwin.pdf より)

もう一つのスマイルカーブですが、これは1990年代にAcer創業者のStan Shih氏が唱えた産業構造上の上流・中流・下流における収益率の違いを説明する言葉で、収益率のイメージをY軸に付加価値、X軸にバリュー・チェーンの工程をとって描くとスマイルの口の形になることからスマイルカーブと名付けられているようです。

上流企業に位置する企業、IT関連でいうならインテルのような企業です。そう言う企業は収益率が高く、中流にあたる中国などのパソコンの組み立て業者などはコスト引き下げにあって収益率が下がり、下流にあたるアップルのような業者は、消費者ニーズをつかんで高い収益率を上げるというわけです。上流企業には高い技術力、下流企業にはブランド力があるとも言えそうです。

日本の企業については、このスマイルカーブの上流や下流で成功しているのはごく一部で、大半は中流に属して、収益が上がらない苦しい立場にあるということがよく言われています。白書にある資料でも、価格決定力を「有している」と回答した企業は24.2%で、「有していない」とした企業が58.9%にも上っています。

白書ではこのスマイルカーブが製造工程のアンバンドル化によって中流部分がさらに低下し、逆に上流や下流部分の付加価値が上昇したとしています。

白書で述べられていることは特に目新しいものではありません。実際、スマイルカーブの変形として用いられている図は2004年のものですし、2002年の興銀調査「わが国製造業の変容と中国進出の実態―加速する「空洞化」の要因を探る」においても、スマイルカーブの中流に当たる「組立加工」がモジュラー化の進展により収益性・付加価値が減少し、逆に上流と下流の収益性・付加価値が上昇していることや、垂直方向のバリュー・チェーンのアンバンドリングが起きていることを指摘しています。

trade_white_paper2017_003_R(興銀調査「わが国製造業の変容と中国進出の実態―加速する「空洞化」の要因を探る」http://www.dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8796031_po_1022_101.pdf?contentNo=1&alternativeNo= より)

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