「稼ぐ力」の創出と人工知能・ビッグデータ

kasegu_005_R

日本の「稼ぐ力」創出研究会

経済産業の有識者会議の一つである“日本の「稼ぐ力」創出研究会”が2015年6月に研究会のとりまとめを発表しました。報告書は大きく「グローバル経済圏」「ローカル経済圏」「未来の変革を「稼ぐ力」とするために」の3つの視点で述べられています。

その中で「未来の変革を「稼ぐ力」とするために」という中で、人工知能・ビッグデータ等の技術の進化が、産業構造や就業構造、その他の経済社会に想像を超えるスピードと態様で、大きな変革をもたらしつつあり、そうした変革への対応を誤ると取り返しのつかない事態になりかねないと警鐘を鳴らしています。

以下に、報告書の中で述べられている人工知能・ビッグデータと日本の産業・経済について、その概要を紹介します。

未来の変革を「稼ぐ力」とするために

人工知能やビッグデータについて述べられているのは、「未来の変革を「稼ぐ力」とするために」という項です。そこではさらに次のような項立てで書かれています。

(1)人工知能・ビッグデータがもたらす大きな変革

①人工知能・ビッグデータによる変革

②産業構造の変化

③就業構造の変化

(2)日本が直面する大きな課題の解決の可能性

(3)人工知能・ビッグデータによる変革の見極めと処方箋の提示

①強みと課題

②今後必要な取組み

(1)人工知能・ビッグデータがもたらす大きな変革

ここで述べられている現状分析からは、人工知能・ビッグデータのもたらす変革が、今後の日本経済の行く末を左右すしかねないという危機感がひしひしと伝わってきます。

現在、人工知能とビッグデータによって起こされようとしている変革は、従来のようアプローチの在り方を根底から揺るがすものであるとして、この変革にいかに素早く、かつ、的確に対応できるかが産業競争力を決定すると捉えています。そして、人工知能・ビッグデータのもたらす変革は、単なる情報技術の進展、あるいは、IT分野に閉じた変化と見るべきではなく、全産業分野を変革するものであり、また、戦後、日本の産業構造が、繊維産業から重厚長大産業へ、そして電気・電子機器産業や自動車産業へと変化してきたものとまるで違い、従来の産業区分ではとらえられない質的な変化をもたらすものであるとしています。

さらに、人工知能・ビッグデータ等の技術は指数関数的に進化しており、そのスピードも従来とは比べ物にならない速さであり、そして、産業構造のみならず、就業構造、人々の移動(モビリティ)、医療を始めとして幅広く経済社会システムを変化させていくとしています。

こうした想像を超えるスピードとマグニチュードで押し寄せる変革への対応の一瞬の遅れは、高付加価値部門を根こそぎ失うという致命的な差になる恐れがあるとしています。一方で、変革は企業にとって新たな価値創造パターンを生み出すチャンスでもあるとしています。

産業構造の変化

従来はリアルな世界でのビジネスとネットでのビジネスの棲み分けがありました。しかし、今はそうした垣根・枠組みを越えて競争が激しくなってきており、仮に日本経済を支えている自動車産業や電気機械産業等が高付加価値を生み続けられなかったなら、欧米企業のプラットフォームの下で、下請け的にモノ作りのみを行う産業となり、我が国は、高付加価値産業を根こそぎ失うこととなりかねないと危機感を表しています。その上で、今後の戦略を考えるために次の視点からの分析を求めています。

a)「モノ」から「システム」への価値の移行

 b)産業活動のプロセスのシステム化と移転可能性

c)データのバリューチェーンにおける産業競争力の源泉

kasegu_003_R

kasegu_001_R

(ビッグデータ・人工知能がもたらす経済社会の変革 2015年4月21日 経済産業政策局 より)

就業構造の変化

人工知能とビッグデータによって起こされようとしている変革の一つである就業構造の変化について、量的影響と質的影響の2つの視点で捉えています。

① 量的影響

少子高齢化に伴う労働人口の減少は、経済成長にとって最大のマイナス要因の一つであるという議論の一方、人工知能・ビッグデータが雇用を代替し、社会全体で人材が余ってしまうのではないかという議論もあるとして、これまで技術導入が難しかったサービス業等の非定型的業務にも早いスピードで浸透していけば、構造的な人手不足が解消する可能性もあるとしています。

② 質的影響

労働集約的業務が人工知能等によって代替され、人間の仕事は、ヒューマンインタラクションが必要なもの、より創造的なものにシフトし、さらに時間と場所の制約から解放されとしています。こうした変化は、労働者と使用者の関係にも変化をもたらし、成果に基づき評価し合うような動きが大きくなっていく可能性のあることを指摘しています。

(2)日本が直面する大きな課題の解決の可能性

日本経済の状況を、資本投入量も全要素生産性も伸びが低下し、潜在成長率が低迷している等、構造的な大きな課題に直面しているとして、経済の新陳代謝を促し、制度改革とインベストメント・チェーンの高度化を進め、日本経済の生産性を上げていくメカニズムを構築していくことが必要であると述べています。こうした状況において、人工知能・ビッグデータのもたらす変革は、労働投入量の減少の克服、生産性の向上、関連投資の収益性の向上、投資の増加などを促進し、我が国の経済の潜在成長率の低迷等の構造的課題を新たなアプローチで解決できる可能性があるとしています。

人工知能・ビッグデータが解決する可能性のある今の日本が直面している課題として次のことを挙げています。

a) 人口減少・少子高齢化に伴う労働力の減少

人手不足分野における人工知能・機械導入の進展等

b) 高齢化社会における医療・介護の在り方

予防医療の効果を上げることによる健康寿命の延伸、老後の生活の質の向上等

c) 地方における人口減少による地域の存立の危機

地域における自動走行システムによる高齢者のモビリティの確保等

d) エネルギー制約への対応

スマートメーターの本格導入、家庭内機器の制御等による家庭部門の省エネ等

e) 社会保障費の増加等による財政負担の増大

予防医療の充実を通じた医療費増加の抑制による財政負担の軽減等

kasegu_002_R

(ビッグデータ・人工知能がもたらす経済社会の変革 2015年4月21日 経済産業政策局 より)

(3)人工知能・ビッグデータによる変革の見極めと処方箋の提示

政府として、ハードインフラ面の整備、法律・制度の改革、研究開発、設備、人材の投資等、ソフトインフラ面の整備に様々な政策資源を大胆に投入していくことが必要であるとしています。

その上で、次のようなことについて検討を深め、それを世の中に提示し、コンセンサスを形成し、次のグローバル競争に勝ち抜くための処方箋を、官民挙げて、具体的に検討していくことが必要であると述べています。

・人工知能・ビッグデータのもたらす、産業構造・就業構造、経済社会システムが、いかなる時間軸でどのように変化していくのか、

・それが企業にとって如何なるビジネスチャンスを生み、マクロ経済上の制約など我が国が直面する大きな課題を解決する可能性があるか、

・政府や 民間企業は未来に向けて如何なる投資その他如何なる対応を行っていく必要があるのか

① 強みと課題

日本には、構造化された利用可能なデータについては、 世界に冠たる強みがある。これらを有効に活用していくためにデータの利活用に関するルール等の検討・整備、ユースケースの創出、データ流通市場の創出など、産業横断的なルール策定や企業 間連携の促進が重要であるとしています。そして、その基盤として、サイバーセキュリティ対策の充実や研究開発の強化、人工知能・ビッグデータ時代に合わせた人材育成が急務であるとしています。また、制度的環境の面での法制度の整備等についても、議論を深める必要があると述べています。

kasegu_004

(ビッグデータ・人工知能がもたらす経済社会の変革 2015年4月21日 経済産業政策局 より)

② 今後必要な取組み

我が国が持続的に稼いでいくためには、政府として、ハードインフラ面の整備に加え、法律・制度等のソフトインフラ面での整備が必要となるが、これらはいずれも、従来の延長線上のものにとどまらないとしています。

また、個々の企業レベルでは、事業経済性の観点からも予測や対応が極めて難しい面があり、次のことについて、時間軸を含めた検討を深め、コンセンサスを形成し、次のグローバル競争に勝ち抜くための処方箋を、官民挙げて、具体的に検討していくことが必要であると提言しています。

ⅰ) 人工知能・ビッグデータのもたらす産業構造、就業構造、経済社会システムの変革が、いつ頃にどのような形で生じ、

ⅱ) 企業にとって、どのようなビジネスチャンスが生まれてくる可能性があるのか、また、マクロ経済上の制約など我が国が直面する大きな課題をどのように解決する可能性があるのか、

ⅲ) その好機をつかむため、政府や民間企業はどのような対応(規制改革、設備・人材投資等)を進めておく必要があるのか(逆に言えば、どのような対応を怠った場合、日本企業は立ち遅れてしまう可能性があるのか)

( 日本の「稼ぐ力」創出研究会 とりまとめ  平成 27 年 6 月 18 日 より)

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です