DNAメモリ

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DNAメモリ

2016年4月27日、Twist Bioscience社はプレスリリースで「マイクロソフト社から1000万本の合成DNAの製造と、それらDNAを構成する核酸塩基の配列の書き込み業務を受注した」と発表しました。

SAN FRANCISCO, Calif. – April 27, 2016 – Twist Bioscience, a company accelerating science and innovation through rapid, high-quality DNA synthesis, today announced Microsoft Corp. has agreed to purchase ten million long oligonucleotides from Twist Bioscience to encode digital data.
(https://www.twistbioscience.com/press/twist-bioscience-announces-microsoft-purchase-of-its-synthetic-dna-for-digital-data-storage-research/ より)

もともとマイクロソフト社はワシントン大学と共同で、DNA(遺伝子)をベースにしたデータストレージシステムの研究を行ってきており、すでに、4枚の画像データをDNAに記録し、それを読み取ることにも成功しているようです。報道によれば今回のマイクロソフト社の委託というのは、デジタルデータをA(アデニン)、C(シトシン)、G(グアニン)、T(チミン)の塩基配列に符号化するのはマイクロソフト社で、その配列に従ってツイストが合成DNAを作製するということで、Twist社によれば、DNA配列のカスタマイズは現在塩基1つあたり約10セントかかるものを2セントまで下げることを目指しているとのことです。

なぜDNAメモリ(ストレージ)が注目されるのでしょうか。Twist Bioscience社のプレスリリースには、「今のデジタルデータの大部分は、有限の貯蔵寿命で、定期的に再エンコードする必要があるメディアに格納されている」また、「デジタルデータの量は、隔年ほぼ倍増しているが、データを保存する能力は、このペースに追いついていない」として、DNAデータストレージについて、「劣化することなく、2000年まで保存が可能で1グラムに1ゼタバイトを保存することができる」と述べています。

毎日大量のデータが生成され、長期保管すべきデータも2017年では16ゼタバイトにもなると予想されています。(※1)しかし、現在のストレージではそれらを蓄えるだけの容量を確保することが難しいのです。また、長期保管(※2)の観点からも、ハードディスクは5年程度、光ディスクは汚れを防ぎ、日光が直接当たらない場所で、適度な温度と湿度の保存状態を維持すれば、100年以上の保存も可能とされますが、各種資料を見ると10年から3000年と寿命推定に大きな開きがあります。今後IoTの進展とともに「データインフレ」という状態になることが予想され、新たな技術開発が期待される中で、わずか1ℊに1ゼタバイトも情報が蓄えられ、さらに無傷の状態で2000年は保存できるDNAメモリ(ストレージ)は非常に魅力的な記憶媒体といえるかもしれません。ちなみにDNAであても時間の経過とともに劣化していきますが、化石などの場合は数十万年保存できるとも言われ、70万年前の化石からのDNAの抽出に成功しています。

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(※1)アメリカのIDCが2014年4月に発表した調査レポート「The Digital Universe of Opportunities:Rich Data and the Increasing Value of the Internet of Things」では、地球上で生成されるデータ全体の世界を“デジタルユニバース”と呼び、2013年は4.4ZB(4兆4000億GB)であったとしています。そして、2020年の予測をその10倍の44ZB(44兆GB)と見ています。

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(平成26年版 情報通信白書 http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h26/html/nc131110.html より)

こうした膨大な量のデータはクラウドに保管されることになりますが、クラウドの利用が拡大すればデータセンターの消費電力は増えていきます。現在でも、世界で利用される全電力の2%を占めて、日本の総消費電力量を超えているとも言われています。HPの資料によれば、中国、アメリカ、ロシア、インドの次に「The Cloud」となっています。

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(「Beyond2020 情報社会の未来HP Innovation戦略」 日本ヒューレット・パッカード株式会社
執行役員チーフ・テクノロジー・オフィサー 山口浩直 より)

(※2)データの長期保存に関しては、以下のような研究もあります。
イギリスのサウサンプトン大学の光電子工学研究センターは、1枚のディスクに360テラバイトの情報を記録でき、1000℃の高温にも耐えられるとのことです。また、通常の室温であれば138億年の保存にも耐えられるとしています。最初の発表は2013年でしたが、そのときは300kbのテキストファイルでした。「スーパーマン・メモリークリスタル」と名付けられています。

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(http://www.southampton.ac.uk/news/2016/02/5d-data-storage-update.page より)

2012年に日立製作所は、京都大学工学部と共同で石英ガラス内部にCD並みの容量のデータを記録・再生する技術を開発しています。日立では、3億年を超えるデータ保存と1000℃の高温にも耐え得る優位性を強調しています。この技術を使って「3億年後へのメッセージ」と題した石英ガラスが、2014年に打ち上げられた「はやぶさ2」に相乗りしている「しんえん2」に搭載されました。

DNAメモリ研究

DNAをデータ記録媒体として実用化する試みは各研究機関で行われています。2012年にはハーバード大学のジョージ・チャーチ教授らのグループがDNAに5万3000語で構成された本1冊の情報を書き込み、読み出すことに成功したとサイエンス誌に論文発表しています。情報はHTML形式のテキスト約53000語とJPEG画像11枚、JavaScriptのコードからなり、5.27Mbitのデータ量でした。データのエラー発生率は100万ビット中2件だったそうです。
欧州バイオインフォマティクス研究所のニック・ゴールドマン博士らのグループは、2013年1月のNature”にDNAのなかには少なくとも1億時間分のHD動画を保存することができて、コンディションさえよければこの媒体は何万年も維持できるという。と発表しています。用いたデータは、オーディオクリップ(MP3)や写真などで、データの復元率は100%だったとのことです。

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(http://arstechnica.com/science/2013/01/mp3-files-written-as-dna-with-storage-density-of-2-2-petabytes-per-gram/ より)

ハーバード大学と欧州バイオインフォマティクス研究所の異なるのは符号化の方法で、欧州の方法ではDNAの量が少なく済むそうです。Arstechnicaの表題には「MP3 files written as DNA with storage density of 2.2 petabytes per gram」と書かれており、1gのDNAで2ペタバイトのデータが記録できるようです。また、欧州の場合はデータを一部重複させることで塩基の間違いを修正することができるようになっているそうです。
こうした研究の5,6年前になる2007年に、慶應義塾大学 先端生命研究所と同大湘南藤沢キャンパスの研究グループが文字列データをバクテリア(枯草菌)のDNAに書き込み、読み取ることにも成功しています。そして、コンピュータシミュレーションにより、世代を経ていくバクテリアに数千年もの間データを記録できるということも示しています。

 

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