エコーチェンバー現象
昨年のアメリカの大統領選挙のころから「エコーチェンバー現象」なる言葉を目にするようになってきました。エコーチェンバー(Echo Chamber)のChamberは部屋という意味がありますので、日本語では「共鳴(反響)する部屋」といったところでしょうか。
アメリカの大統領選挙ではSNSが大きな影響を与えたと言われていますが、FacebookやTwitterなどのSNSの世界では、自分が聞きたいと思う情報にしか耳を傾けず、異質な人々と交流することを避け、同質な人々としか交流しない傾向があるとされています。そうした偏ったつながりの中では、事実であるかどうかより共感できるかどうかが重視され、そのことが大統領選挙においてトランプ氏に有利に働いたというのです。
このような、同じ考えや思想の同調者が増幅し、反響する部屋(エコーチェンバー)にこもることで、他を排除するような意見の過激化が生じてくる現象を「エコーチェンバー現象」と呼び、アメリカの大統領選挙ではこのエコーチェンバー現象が選挙に影響したというわけです。
コクーン化・フィルターバブル
エコーチェンバー現象とよく似た言葉に「コクーン(cocoon)化」があります。コクーンは繭のことで、自分の繭(コクーン)の中に閉じこもってしまうこと、SNSなどを特定の人のみに限定して、自らつながりを拒否してしまうことを指しています。
「フィルターバブル(filter bubble)」と言う言葉もあります。検索のアルゴリズムが、ユーザーに合わせた情報を推定して提供することです。市民活動家で「閉じこもるインターネット」(早川書房)の著者であるイーライ・パリサー氏が、自分のフェイスブックが閲覧履歴の分析で自分と同じ考えの人の書き込みばかりになっていたことから、利用者は知らないうちにフィルターがかけられた同質性というバブル(泡)にとじ込められているとして名付けたようです。
エコーチェンバー現象、コクーン化、フィルターバブルのいずれも、見えている情報が個人にパーソナライズされたもので、多くの人に共有された情報ではないという点で共通するように思います。
キャス・サンスティーン
「エコーチェンバー現象」という言葉は、意外と古くに提案された言葉です。ハーバード大学ロースクール教授のキャ ス・サンスティーンが、2001年に「Republic.com」という本を著していますが、その中ですでに使われています。日本では2003年に毎日新聞社から「インターネットは民主主義の敵か」という題名で出版されています。
キャス・サンスティーンは、インターネットが世界に対する関心を奪う方向に発展し、自分の関心の中だけに閉じこもり、自己充足的な生き方に閉じてしまう可能性について、サイバーカケードと集団分極化やエコチェンバーといった言葉で指摘しています。
ソーシャル分断社会
NHKの「ソーシャル分断社会」シリーズの中で「エコチェンバー現象」を取り上げています。
フェイクニュースを発信し続ける人物の「ウソを真に受ける社会に問題があり、そういう人は、真実かどうかではなく、自分が信じたいと思うことだけが目に入る」と言う言葉や「自分の考えと異なる意見や、見たくないニュースに煩わしさを感じる」といった声を紹介しています。
そして、こうした状況に対応するために「SNSなどで出回る情報の信頼性を見極める教育をいますぐ始めるべき」とのスタンフォード大学のサム・ワインバーグ教授の指摘を載せています。